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RAPTORS
11

「驚かしてごめんなさい。あなたと隼の事は栄魅さんから聞きました。どうも、あの子と仲良くしてくれて、ありがとう」
「は、はあ…」
 鈴寧の言葉に生返事しか返せない黒鷹。
 しかし改めて「仲良く」など言われて擽ったい気がした。
「隼の…あっ!!」
 驚きの余韻が冷めてきて、はたと重大な事に気付く。
 懐に手を入れる。だがそこに無ければならぬ物が、無い。
「どうしたの…?」
 深刻な顔で自分の体中を探る黒鷹に、恐る恐る栄魅が尋ねる。
「無い…!!隼の書状が、無い!!やっべ…」
「誰かへの書状?」
「ああ…光爛への…」
 諦めて腕をだらりと下げながら黒鷹は答えた。
「奴らに取られたんじゃ…」
「だろうな…。畜生…」
 携行していた武器も勿論没収されている。その際に取られたのだろう。
「あれが無いと、隼が…」
 歯噛みして悔しがる黒鷹。
「光爛への書状なら、奴らもそう簡単に捨てたりしないんじゃない…?とにかく落ち着いて、今はここを出るのが先決よ」
「ああ…全くだな…」
 黒髪を掻き上げながら、目前の扉を睨む。
 とにかく敵の手中から脱しなければ、話にならない。
 ふと、横の栄魅を見上げる。
「栄魅はどうしてここに?」
「隼と基地に居たところを襲われた。隼は助けてくれたんだけど、突然悪しき空気が流れて…彼でも自分の身を守るので精一杯だったでしょうに…。隼は…無事?」
 黒鷹は言葉が紡げず、唇を噛む。
 後ろから――血を分けた者の、痛いくらいの視線を感じた。
「まだ…生きてる、筈だよ」
 漸くそれだけ、言った。
 確信はしている。だが、確証は無い。
「そんなに…悪いの?」
 微かに震える栄魅の声に、溜息を吐きながら頷く。
 後ろで、椅子を立つ音がした。
 ふらりと、影が動く。
「鈴寧…」
 彼女は開かないと分かっている扉の前まで進み、手を掛けてもやはり微動だにしないと知ると、その場に崩れた。
「おい…!!大丈夫か!?」
 咄嗟に動けない黒鷹の声に、彼女は頷いた。
 そして、痛切な声が零れ落ちる。
「あの子に…会いたい…」
「……」
 黒鷹はその言葉に縛り付けられた。
 会いたいのは――哀しい程に会いたいのは、同じだ。
「父と、弟と三人でまた暮らすのが私の夢でした。でも…父はもう、居ません」
 俯いたまま、ぽつりぽつりと話す言葉は、今にも消え入りそうに。
「ここに連行される時、抵抗して…殺されました」
「な…」
「その上、あの子まで居なくなったら――!!」
 嗚咽。
 栄魅がそっと、肩を撫でる。
 呆然と見ていたが、無意識に言葉は滑り落ちた。
「泣くなよ。また、会えるから。俺が絶対…会わせるから」
 それは、自分に対して言ったのかも知れない。
 絶対に、再会する、と。
「だから、こんな所…さっさと出なきゃな」
 自分も含め、この場に居る全員を元気付けようと殊更明るく言えば、ようやく“らしさ”が戻ってきた気がした。
 そう、悩んでも仕方ない。行動あるのみだ。
 顔を上げた鈴寧に微笑み、栄魅に訊いた。
「飯持って来る時は、そこ開くんだよな?」
 見たところ、他に扉も窓も無い。
 脱出するとしたら、唯一の扉が開けられる瞬間しかない。
「うん…朝と晩に。でも、黒鷹」
「何?」
「その前に、鈴寧が…危ないかも知れない」
「…どういう事?」
 訝しく思って聞き返せば、鈴寧本人が説明を始めた。
「私は光爛に退位を迫る為の人質…。光爛が今の地位を守るなら、私は殺されるでしょう…。その期限は、今日だと知らされました」
「そんな…!」
 彼女は淡い自嘲を浮かべる。
「どの道、私は殺されるでしょう。あの人が…私の事など、眼中に入れているとは思えない。弟と同じ運命を辿るわ」
「……光爛は、動くよ。きっと」
 鈴寧は驚いた顔で振り向いた。
「同じ過ちを繰り返す様な人じゃない。隼の母親だもん。…それに、家族の事、大事に思ってるよ。本当は」
「っでも――!!」
「信じようよ」
 揺るがない、黒の瞳。
 この、強い意志が有るからこそ、今まで歩んで来れた。
「さて、そうは言っても光爛の助けを待つワケにゃいかねぇし…武器は取られちまったし…どーすっかな」
 言いながら深刻な顔はしていない。
 何やら袖口を探っている。
「余裕ね…?何か有るの?」
 不審そうに栄魅が尋ねる。
「何も?余裕なんて無いし。…ただ、非常用の備えはしてるけど」
「備え?」
 ぷつりと、袖口で糸が切れる音。
「前に根に来てリンチに合ってから、今みたいな場合も想定しなきゃと思いまして」
 袖に入れていた手が、銀色に光る物を摘んでいた。
「ぱんぱかぱーん!茘枝に貰った薬付きの針ー!!」
 指には確かに、三本の針。
「…有るじゃん」
 栄魅の冷静なツッコミ。
「いやいや非常事態だからさ…俺の中では有る事にならないの。ま、あとは敵さんのお出でを待つだけだな!」
 何よりも言葉とは裏腹の余裕綽々な黒鷹の態度に、常識人二人は首を傾げていた。





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あきゅろす。
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