RAPTORS 10 「…アンタは本当に姶良なのか…?」 両手足を縛られた状態で、それ以上に絶望的な声で隼は訊いた。 「そうよ。久しぶりね、隼」 「アンタは死んだ筈だ。十年前に…俺が見た…」 「そうね。あなたにとってはそれが事実」 姶良は少年の顔を覗く。 「でも私は生きてる」 「――どういう事だ…!?」 「私があの孤児院に居たのは、地の調査の為。任務が終わった時誰にも怪しまれないように、あなたに私が殺されるところを見せた――」 「…あれは演技だったのか」 「そうよ」 にっこりと、笑う。 「心配してくれて、ありがとう」 「嘘だ…」と呟きながら、頭を振る。 「俺はアンタの復讐がしたくてここまでやってきたのに…。馬鹿みてぇ…」 ふつふつと湧き上がる、怒りと―― 「何だったんだよ、俺がしてきた事って…!何もかも無駄だったのか!?」 姶良は目を閉じてその叫びを聞いていたが、開き、言った。 「復讐なんて虚しいものよ」 全てを失った、虚脱感。絶望。 だが、それに身を委ねている場合ではない。 「――これから俺をどうする気だ」 無理にでも冷静に、隼は訊いた。 「天に連れて行って、捕虜になってもらいます」 「無駄だ。天に行けば俺は屍にしかならない。捕虜の価値なんざ無い」 「知ってるわ」 彼女は懐から液体を出した。 「これが何の薬か分かる?」 「さぁな」 「根の民が空気汚染に対して使っている“生命維持薬”ってところかしらね。勿論、改良して強化してあるけど。ただし症状は緩和されない」 「苦しむだけ苦しめって?」 「そうよ。いい餌になって頂戴」 「エサ…?黒鷹は来ねぇよ。もうアイツと俺は何の関係も無い」 「それはどうかしら?」 彼女は静かに笑み、意味深な視線を向ける。 「王子サマとはいいお友達でしょう?」 「…勘違いだ」 低く、呟く。自身に言い聞かせるかのように。 それを見透かして姶良は嘲笑い、続けた。 「あなたがこんなに出世するとは思ってなかったわ、隼。こんな形で再会できるなんてね」 「俺も、アンタがこんなに悪い奴だとは思ってなかったよ、姶良」 鼻で笑って、彼女は空を指した。 「天に行きましょう。一緒にね」 [*前へ][次へ#] [戻る] |