RAPTORS 9 しゃくりあげていた栄魅がやっと落ち着いて、ぽつぽつと話し始める。 「最初は調子良く戦ってたんだけど――」 ふと、隼の動きが止まった。 その顔は、驚きなのか、怖れなのか。 視線の先には女が立っている。この一隊の司令官だ。 栄魅は彼の名を呼んだ――が、遅かった。 「斬られて…捕らえられたわ。抵抗したけど、数が多くて…」 黒鷹は外にあった肉片を思い出した。 恐らくその時の抵抗によるものだろう。 鋼糸によって、無残に斬られた痕。 「あの女は“生け捕りに”と言っていた。私も危なかったけど、この人が助けてくれた」 言って、栄魅は朋蔓を見た。 「――しかし、私の到着が遅かった。駆けつけた時には既に司令官の姿は無かった」 「隼を連れて逃げられたわ。兵も次々と撤退していった…」 聞き終えて、黒鷹は土の壁を力任せに殴った。 「畜生ッ!」 叫ぶなり、立ち上がって出口に向かう。 「おい…どうする気だよ!?」 鶸が慌てて止めに入る。 「行かせたのは俺の責任だ…。今ならまだ間に合うかもしれない。助ける!!」 「待てよ!!俺だって行きてぇけど、闇雲に動いても仕方ねぇぞ!?」 「時間が無ぇんだよ!天に連れて行かれたらお終いだ!!根の人間は天の空気には耐えられない…」 「だからって…お前が動くのはマズイだろ!?」 「お前までそんなくだらねぇ事言うのか!?隼が死ぬかもしれないって時に…。今アイツを助けられるのは俺達だけだ!お前が止めても俺は行く!一人でも!」 「殴らなきゃ分からねぇのか馬鹿王子!お前が行っても意味無ぇよ!こっちの手間が増えるだけだ!」 「てめっ…!!」 今にも鶸に殴りかかりそうな黒鷹の肩の上に、朋蔓の手が置かれる。 「落ち着け、二人とも」 二人は我に返って、バツが悪そうに口をつぐむ。 「確かに時間は無い。――しかし今君達が動くべきではない」 「じゃあ、どうすれば…。このまま動かない訳にはいかない…」 黒鷹が弱々しく呟く。 「私が東軍に早馬を出そう。天の入国口を見張らせ、発見次第救出する」 「…もう天に入っていたら?」 「私が東軍の精鋭部隊と共に城内を捜そう」 黒鷹は頷いたが、力無くその場に蹲った。 「隼が天でどれだけ生きていられるか分からない…。城で見つかったとしても、手遅れかも知れない…」 額に手をやり、項垂れる。 「俺が止めていれば…」 「黒鷹…」 栄魅が肩に手を当て、慰めようとするが言葉が出ない。 と、鶸が足を踏み鳴らして怒鳴った。 「隼は死なねぇ!!死なせねぇ!!」 鶸の手が黒鷹の顔を上に向ける。 「アイツは死なねぇっつったんだろうが!!生きるって言ったんだろ!?信じろよ、その言葉を!後悔してる場合じゃない!!」 「…そうだな」 黒鷹は頷く。 「お前の言う通りだ。悪かった」 「別に、謝る事じゃねぇよ」 鶸は照れたように返す。 それに微笑して、黒鷹は立つ。 「隼を助けて下さい。お願いします」 朋蔓に深く頭を下げた。 「必ず」 朋蔓も力強く頷いて応じる。 「それにしても、その隼という人はよほど大切な家臣なのだな」 「違う――」 黒鷹はきっぱりと言った。 「親友だよ」 [*前へ][次へ#] [戻る] |