RAPTORS 5 息を弾ませて、見慣れた扉の前に立った。 「俺いっちばーん!」 「俺にぃばーん!」 「って言うか、お前の負け」 「でも銀メダルだろぉ!?」 「負けは負けだもんねー!」 勝ち誇っているのは黒鷹の方である。 因みに、本気で喜び、悔しがっているが、特に何かを賭けている訳ではない。 無意味に競争に夢中になるのも、ガキの特性である。 「うぁ、寒ぃ!!さっさと入ろうぜ」 鶸に言われて、黒鷹も百八十度回転し、扉を叩いた。 程なく開く扉。 「よぉ!久しぶりだな。おやっさん元気にしてたか?」 鶸の無邪気な挨拶に、司祭の顔も綻ぶ。 「ええ、お蔭様で。鶸様もお元気そうで良かった」 「司祭、コイツが元気じゃねぇって事なんか有り得ないから」 「それもそうですね。どうぞ、中へお入り下さい」 司祭に促され入ってみれば、寺院も特に変わりは無いようだ。 「雨の中ご苦労様です。今、火を焚きますから、寒い所で申し訳ありませんが、少々お待ち下さいね。今日はお二人だけですか?」 「いや、後から二人来る」 「俺ら走って来たから」 口々に報されて、「そうですか」と頷き、暖炉を弄り始めた。 やがて、暖かな火が燃えて、三人でそれを囲む。 「鶸様がご無事で本当に良かった…。今まで、どのように暮らしていらしたのですか?」 「…盗賊やってた。孤児集めて」 「おや…」 「生きる為に、他に術が見つからなくってさ。…悪いとは分かってんだけど」 「生きていれば、償いも出来ます」 「そうだよな。ありがと」 鶸の人懐っこい笑みを、司祭は見る事ができない。だが、気持ちは十分に通じているのだろう。 「ああ、そうだ司祭。俺達根に行ったんだ。俺と、隼で」 「――根に?」 「同盟、結んで貰おうと思ったんだけどな。ま、それは断られたオマケに殺されかけたんだけど」 そこまで言って、話しても良いものかと黒鷹は迷う。 「…隼から、直接聞いた方がいい?」 思わず、尋ねてしまった。 無論、司祭は何の事か判らず、怪訝な顔をする。 それを見て、“結局、話さなきゃならなくなった”と苦笑した。 「隼の母親に会った」 後でアイツ怒るだろうな、と思いつつ。 「ええ!?」 二人の驚きの声が被る。鶸も初耳だ。 「…詳しく言った方がいい?」 「お願いします。隼は訊いても話してはくれないだろうから」 司祭の言葉に納得し、話す事に決めた。 「名前は光爛…根の総帥」 「総帥?」 「根の王を倒して、自分が代わりに統治している」 「スゲェ。大物じゃねぇかよ」 「…そうすると、同盟を持ち掛けたのも…」 「ああ。光爛に話した。それで殺されそうになった」 「…隼も…」 「最初から殺すつもりだったんじゃないかって、隼は言ってた」 「酷い…」 「今はお互い様。隼も殺気立ってる」 司祭は険しい顔をして黙る。 代わりに鶸が訊いてきた。 「何で自分の子供を殺すんだよ?」 「さぁな、俺もよく解んねぇけど」 利用される事を恐れている、とは聞いたが。 「親子関係以前に、何かもう他人みたいだしさぁ。根の人は、地の人を恨んでいるから殺すって…そのせいなのかなぁ…」 「それは地でもそうですよ」 「え?」 「地の人が、根の人を見付ければ殺す…そんな事が時にありました」 それもあって、根の人々は他国と交わらなくなった。 「…隼は…」 根に発つ前の言葉。そしてあの傷。 「地の人々に殺されかけていたところを、保護されたんです」 「――それでよく地に仕える気になったな…」 「あの子自身は地の民になろうと、ずっと努力してきた訳ですから。それ以上の誉れは無いでしょう」 「でも、何か騙しているみたいで、悪い…」 「貴方が気に病む必要はありませんよ。それに、仕えるのが貴方だったから、良かったんです」 「……」 「でも何でそんなに仲悪いんだ?」 「憎しみが憎しみを生んできたのでしょう。事の原因ははっきりしませんが、根の民は元々地の民だったようです」 「え?仲間割れ?」 「ええ。戦をして負けた民が根に追いやられた、と」 「何で戦したの?」 「さぁ、そこまでは…。随分と昔の話ですからね」 「ふぅん…。そろそろ仲良くすればいいのに…」 鶸の言葉を、火を見つめながら噛みしめる。 ――行かなければいけない。 「司祭」 「何でしょう」 「俺また行くな、根に。もうそんな事で誰も悲しまない様にしなくちゃ。…隼は連れて行けねぇけど」 司祭は頷いたのか、頭を下げたのか。 「お願いします」 そう言って微笑した。 [*前へ][次へ#] [戻る] |