RAPTORS 4 翌日、彼らは仲間の待つ城跡へと向かった。 小雨が降っていたが、見通しの利かない事はかえって好都合だった。 流石に一日では目的地に着かないので、司祭の住む寺院を中継点として、この日の目的地とした。 黒鷹と鶸はどちからが先に着くかを競って、走って行ってしまった。 まさか隼が“かけっこ”に参加する筈もなく、そうすると縷紅と二人きりで歩く事になる。 隼は毛頭、この男と仲良く歩く気は無い。 縷紅の数歩先を、黙って歩く。 気まずい空気である。 縷紅は隼の様に、彼を感情的に嫌っている訳ではない。 追い付こうと足を速める。 そうすると隼も、追い付かれまいと足を速める。 更に足を速める。 前も更に足を速める。 磁石の様に、しばらく競歩をした後、たまり兼ねて縷紅が口を開いた。 「何故そんなに急ぐんです?」 一瞬振り向いたものの、足を止めず隼は答える。 「てめぇと並んで歩きたくねぇから」 「じゃあ、並ばなくてもいいから聞いて下さい」 「…何を?」 今度は振り向きもせず言う。 構わず縷紅は問う。 「もし、黒鷹が骨折で済まなかったらどうするつもりだったんですか――?」 「…さあ?そんな事考えるヒマなんか無かった」 真剣な問いに、答えは素っ気ない。 「万一、亡くなっていたら、それでは済まされない」 「アイツが死んだら俺も死んでる。殺されなくても自分で死ぬ」 「――何故?」 「責任を取る為に、そのくらいの覚悟は出来てる。ま、死ぬのが怖いなら刀も持てねぇけど」 「しかし、あなたが死んだからと言って、彼の穴は補えない」 「お前でもいい。要は戦をすればいい」 「そんなに単純な問題ではありません」 「――俺は」 縷紅の言葉を、緑の瞳が封じる。 「黒鷹の臣だ。アイツが死ねば、俺が生き永らえる意味なんか無い」 「…だから、死を選ぶと?」 浅く頷く。 「クロが死んだ後の事なんか、俺には関係ないからな」 「…本当にそれでいいんですか?」 隼は黙って歩き続ける。 「地は、どうなってもいいんですか?」 「―――」 「王子の臣であると同時に、地の臣ではなかったのですか?」 「――じゃあ訊くけどよ!」 声を荒げて、やっと体ごと振り返る。 「俺が居たところで何か変わるのか!?民を救う事どころか王子一人守れやしない、そんな人間が国の命運を変えられるとでも!?」 「…変わります。絶対。貴方がその意思を持ち続ける限り」 静かに、きっぱりと縷紅は言った。 「お前は…何も知らないからそんな事が言えるんだ…。黒鷹が居なければ俺は何も出来ない。戦う事も。だから、死ぬしかない…」 縷紅はまじまじと、雨の垂れる俯く顔を見詰めた。 「五年…彼の不在を補ってきたのは、貴方じゃないですか」 「地獄だったよ。お前達のお陰でな。…やっぱり俺には何も出来ないと判っただけだった」 「どうして自分をそんなに無力だと思うんですか…?」 片目で、縷紅を睨みつける。 「天の人間には、解らねぇよ…」 不意に縷紅は目を逸らし、隼に歩み寄った。 彼は微動だにしない。 隼の肩に手を置いて、言った。 「先に行っています」 雨の中に、縷紅の気配が消える。 守れなかったから。 自分一人では、守れなかったから――。 [*前へ][次へ#] [戻る] |