RAPTORS 8 冷たい岩肌が、身の火照りを冷ます。 複雑な色をした顔を上に向ける。 何事も無かったかの様に、岩の割れ目から星が見えた。 三人。 その数字以上に、失った物は大きい。 何も出来なかった。 守ってやれなかった。――また。 血の中で立ち尽くした、あの時の様に。 「…俺って弱い奴だな…」 独り、呟く。 何も出来ない、力の無い自分。 今までそれを痛感した事が思い出される。 自分を救ってくれた伯母を、礼も言えないまま看取った時。それを誰よりも悲しんでいる筈の友を、励ます事すら出来なかった。 祖国が滅ぶのを、目の前にしながら何も出来なかった。 そして、何よりも大切な友は、いつの間にか彼の前から消えてしまった。 重い使命だけが、目の前に残っている。 果たす事が出来るのだろうか。この、無力な自分が。 「――鶸」 入っても良いか、尋ねる声だ。 鶸は無言で持って答える。 縷紅が、扉代わりの布を潜った。 「遅かったな」 今帰ったばかりなのだろう。血まみれの服を着替えていない。 「“事後処理”をしていました」 結局彼女は、この件をどう処理するのだろうと、ふと思う。 「そっか、お疲れ。もう今日は休めよ」 「お邪魔でなければ、一言言いたい事があって」 「…何?」 叱られるのかと思った。 三人の責任を、どう取るのかと。 ――誰かに叱って欲しかった。 だが。 「今日の事は、私のせいです」 「…は?」 「私がここに居たから、天の者に嗅ぎ付けられた――」 彼女を殺さなかったが為に。 「それって…つまり…」 鶸はよく飲み込めないでいる。 「縷紅がここに居たから、俺達の居場所がバレたって事?」 「そうです。…申し訳無い事をした…」 この人物に、三人の責任がある…? 自分は彼を責めるべきなのだろうか。よく、判らない。 そして不可解な感情が鶸を支配した。 「何でお前が謝るんだよバカヤロー!!」 考えるより先に怒鳴っていた。 怒鳴られた方は、意味が解らず困っている。 「俺がお前を責めてどうすんだよ!!俺そんな事しねぇよ!」 「……」 「俺は仲間を恨みたくないんだよ!!」 そういう事か、と縷紅は理解した。 全く素直な少年だ、そう思って心中で笑む。 「謝って、ごめんなさい」 とにかくそう言った。 鶸は“うん”と頷く。 「俺だって悲しいし、めちゃくちゃ後悔してるけど、へこんでばっかりじゃいられないから」 自己嫌悪にはなるけれど。 同時にもっと前に進まなければと思う。 いつも鶸はそうやってきた。 「ならば一つ提案させて頂きます」 「案?」 「城跡地に、隼の使っていた革命軍の隠れ家があります。そこに基地を移せば、今しばらくは安全かと」 「――城跡…。でかい引越しだな」 「多少遠いのですが、ここに残るよりかリスクは少ないと思います」 「なら早い方がいいよな。また天の奴らが来ないうちに移っちまおう」 「――はい」 心得た様に縷紅は笑む。 「茘枝は帰って来たんだよな?」 「はい」 「…やっぱり一人だった?」 「ええ、まぁ…。見知らぬ人が一人居ましたが」 「誰だろうな?まぁアイツらじゃねぇ事は確かだけど」 「…どうしたんでしょうね」 ふと、鶸は黙る。 「鶸?」 「…どうして…」 声を詰まらせる鶸。 「あれだけ帰れって言ったのに…。帰るって言ってたのに――」 「……」 急に、どシリアスになった鶸に、縷紅は戸惑う。 「俺もいつか根に行って仇は取ってやる――!」 「鶸?」 まさかと縷紅は思う。 自分だって確かな事を聞いた訳ではない。ただ何か事情があっての事だと信じていた。 ――そう思っていたかっただけかも知れない。 「…でもアレだな、なんか実感湧かねぇな。五年も別れてたからかな」 「そうですねぇ…」 それより目の前にある問題を片付けなければ、と思う。 悲しむのは、その後でいい。 二人ともしんみりと、それぞれの感慨に耽っていた時。 [*前へ][次へ#] [戻る] |