RAPTORS
2
闇の中。
黒の中に、白い人影があった。
隼だ。
彼の周りにロウソクが三本。明かりはそれだけだった。
そこは元々城があった場所だ。
今は影も形も無い。
残っていたのは脱出用の地下道だけだった。
隼は闇を見つめていた。
長い間そうしていた。
五年。
気が遠くなる程長い年月。
闇の向こうから足音がした。ごく静かなものだが。
続いて明かりが差し込んだ。
「茘枝(れいし)」
隼が入ってきた者の名を呼んだ。
女だった。
「何か動きが?」
「動きも何も…。三日後に処刑よ」
「…三日、か」
隼の視線はまだ宙に浮いている。
「あと三日しか…。動かないの?助けなくていいの?」
感情を押し殺した声。
「確かにリスクは大き過ぎるけど…でも見殺しには…」
「殺させない」
ようやく、緑の瞳が茘枝に向いた。
「それにヤツは死なない」
「……どういう根拠……!?」
「情報が入った」
「情報?」
「宿からだ。王子を――クロを泊めていると」
「信じてもいいの?」
「分からない。今から俺が行く」
「そう…」
「お前は天に行って――場合によってはクロを助けてくれ」
「…隼」
立ち上がった隼を茘枝が呼び止めた。
「少し休んだら?何日寝てないの?」
「三日」
「…ったく…。過労死しないでよ」
気配で、隼が微笑んだのが分かった。
「胸騒ぎがするんだ…。五年ぶりに」
彼にしては珍しい、無邪気な表情だった。
悪い予感ではないのだろう。
この五年、笑う事も稀だったと、茘枝は思った。
そして、お互い背を向け、それぞれの道へ向かった。
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