RAPTORS
4
下り坂を駆け降りる。
暗闇の中、疾風の如く。
気持が先走り、足が連られ。
止まる事を知らない。
――得体の知れぬ不安。
早く、早く行かねば、と。
間に合わない。
ぞっとする。
そしてまた足を速める。
「さながら風の精ねぇ」
唐突に耳に入った声に、反射的に身構える。
「私よ?黒ちゃん。奇遇ね、こんな所で会うなんて」
闇の中から茘枝が現れた。
「奇遇?ホントに偶然?」
まさかずっと見られていたのではないか、と。
茘枝は肩を竦めて、意味深に笑う。
――止めないのか。
「私は地に用があるの。急ぐから先に行くわよ?」
言って、地面を蹴る。
黒鷹は慌ててその背を追う。
「黒ちゃんはどうして行くの?」
「多分、茘枝と同じ理由。…やっぱり、お前が出るって事は、あっちは相当切羽詰まってるんだな?」
茘枝は追ってくる黒鷹を振り返る。
「…いつからそんな勘の鋭い子になっちゃったの?」
「な…悪いか!?」
「だぁって、そんな黒ちゃん可愛くなぁい」
「……」
そうは言われましても…、な心境。
「…お、俺ももう大人なんだからっ!いつまでもガキ扱いするなって!!」
「やだぁ、黒ちゃんはずーっとそのままがいいっ!」
「…えー…」
顔をしかめる黒鷹に気付いて、茘枝はふっと笑う。
「アンタだけは、大人とか子供とか…男とか女とか、そんな分類に当て嵌まらないもの。“黒鷹”というだけの存在」
「……」
「だから、そのままで…ね?」
唯一。
唯一、以前から“本当の自分”に気付き、接してくれた人。
「急ごっ!!」
「勿論!」
更にスピードを上げて。
自分を待っていてくれる存在に向かって。
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