RAPTORS 1 日が落ちかけている。 まだ軍議は続いている。 早急に結論を出さねばならない。 だが、八方塞がりの状況に、打開策は生まれない。 時ばかりが過ぎていく。 「砲撃さえ無ければ打つ手もあるものを…」 「そんな事を言っても始まらん」 「だが、砲撃の前に我々はどう立ち向かえば良い」 「そうだ。士気も上がらん。兵が減っていくだけ…」 「戦のしようが無い。何とかアレを止める方法は無いのか」 「誰かが止めに行くか?」 旦毘が言った言葉に、話し合いは急に止まった。 皆、一様に難しい顔をしている。 「…無茶だ」 「敵の真っ只中だぞ」 「自殺行為も同然だ」 「でも、アレを止めなきゃ総崩れだ。皆滅ぶしかない」 「では旦毘、お前は行く覚悟が有るのか!?」 「行けと言われれば、しゃーないね。俺も東軍の人間だ。勝利の為なら死ねる」 あっさりと旦毘は答えた。 そして、周囲を睨め付ける。 「アンタ達は?それだけの覚悟があるか?いくら俺でも、一人じゃ無理ってヤツだぜ?」 大人達は口ごもる。 旦毘は軽く溜息を吐いた。 「…なら、俺が行くよ。一人でも」 視線が集まる。 自分ではない安堵もあり、哀れみもあり、無茶だと言う嘲りもあり。 「成功は保証できねぇぞ?」 それらを全て受け取って、彼は言った。 「待て、旦毘」 朋蔓が口を開く。 「止めてくれるのか?叔父さん……だけど他にどうしようも無ぇよ」 「他に何か手はある筈だ。考える。だから、お前を一人犠牲には出来ん」 「…嬉しいけど。手なんか、無いって」 虚ろに笑う。 「そんな事は無い。焦るな。今お前を失っては、あまりに深い痛手になる。…縷紅は誰が支えてやるばいい!?」 「一人で大丈夫だよ。アイツは強いから」 がたりと、椅子を引いて。 「これで、漸くお開きだな、この軍議。…疲れたなぁ」 立ち上がり去ろうとする背。 朋蔓は止める言葉を探している。だが、見つからない。 旦毘が出入口に手をかけようとした時。 扉は勝手に開いた。 「…ビックリしたぁ…」 一人でに開く筈の無い扉が開いた事と、そこに縷紅が立っていた事に。 「その話…少し待って頂けませんか?」 「え?」 問い返そうとした旦毘よりも早く。 「縷紅…貴様、今までどこに逃げていた!!」 「そんな事で良いと思っているのか!?」 「責任を取れ!!全て貴様のせいだ!!」 「てめえらいい加減に…!!」 旦毘が怒鳴り返そうとした時。 縷紅は、服を拭い喉元を露わにした。 そこには、傷。まだ生々しい。 刺し損ねた跡。 「…こうやって逃げていました」 絶句する一同の前で、縷紅は告げた。 服を元に戻し、傷を隠す。 「逃げようとした事は、悔い改め、謝罪します。責任は今からいくらでも取る…。しかしその前に、今の話、少し待って下さい」 何か言おうとする旦毘や朋蔓を制して、縷紅は後ろに視線を投げた。 そこには隼と緑葉が居る。 「隼から…話が」 言って縷紅は横に控えた。 何か言いたげな目に、にこりと微笑み、隼に視線を移す様に促す。 隼は毅然として口を開いた。 「今の話――砲撃を止めに行く役目は、俺が果たす」 場は騒然とした。 「子供にこんな重大な仕事を任せる訳には…」 「ガキの出る幕じゃない!!遊びじゃないんだぞ」 「根の人間ふぜいに何が出来る!?」 縷紅の件でまだ溜飲の下がらない連中が、気炎を吐く。 根の子供なんかに――その合唱となっている。 「私の隊から行かせる方がマシだ」 「いや、私の所に適任が居る、奴を行かせよう」 「いや私の所から」 「いやいや――」 「いずれにせよ根の者に任せるよりマシだな」 「そうそう、根の者よりは――」 旦毘の頭の中で、何かが切れた。 「この腰抜け共が――!!」 連中に掴みかかろうとするのを、隼自身が片手で止めた。 腕を掴まれた旦毘は、燃えるような目を向ける。 返ってきたのは、冷ややかな緑。 その目で、隼は一同を見回す。 「お言葉ですが」 前置いて、睨み付ける。 「根の人間だから、というのは旧時代の悪しき風習です。そんな物はこの戦によって葬り去るべき。地と根の人間に何の違いがあるか、貴方がたにお分かりになりますか?想像と偏見のみで物を言う者に、真実など見えるとでも?」 淡々と反論する。その奥に、どれだけの感情が渦巻いているか――睨む瞳が物語っている。 生きてきた分味わってきた、真実がある。そして、理不尽さへの怒りが。 隼は縷紅を横目に見た。 「天の人間もまた同じ事。種族の違いだけで争ってきた愚かな歴史を断ち切る為の戦として、俺達は今日まで闘ってきました。それをどうか御理解頂きたい。手柄を立てる事しか眼中に無い頭でも、お分かりにならねば困ります」 「何ぃ!?」 「愚弄する気か!!」 挑発に当然息巻く者が出るが、隼は動じない。 寧ろ、愉快そうに冷笑を浮かべて、完全に見下した目で、そんな連中を見やる。 「私の申す事がお分かりになれないのなら、以下は刀で語って差し上げますが――如何に?」 「ちょ…隼」 流石にそれは…と、旦毘でさえ困惑の目を向ける。 隼はさらっと無視して、挑発に乗った一人を――瞬く間に峰打ちにした。 一瞬の事で、後に続く者は唖然としている。 「――納得頂けたなら、そのまま御退場願いましょうか。これ以上の軍議は必要ないでしょう、朋蔓殿?」 朋蔓が頷くが早いか、男達は逃げる様に出て行った。 [次へ#] [戻る] |