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RAPTORS

「へーっ、じゃあお前、天から亡命してきたってコト?珍し」
 縷紅の紹介を聞いて、鶸はそう感想を言った。
 言われた縷紅は微笑して頷く。
「あっ、じゃあ天のヒトって、雲食うってホント?」
「何言ってんだお前は」
 目を輝かせて訊く鶸に、隼はどこまでも冷めている。
「天は雲の上にあるんで、誰も食べた事は無いと思いますよ」
 微笑を崩さず、縷紅が答える。
「なんだー。じゃあさ、天の人間は空飛んで移動するってのは?」
「まぁ、嘘じゃないですけど…」
「ホント!?羽生えてんのか!?」
「いえ…飛行機を使うんです」
「なんだそのヒコーキって?」
 今、彼らがいるのは、鶸達の盗賊のアジトだ。
 もうすぐ日が暮れる為、今夜はここで過ごす事になった。
 海水の侵食によって出来た洞窟である。
 蝋燭の灯る、鶸曰く“族長の部屋”に五人は集っている。
「まぁそんな事はいいとして、本題だ」
 鶸の好奇心に任せた会話を打ち切り、隼が言う。
「俺達は革命をするつもりだ」
「カクメーって何?」
「…アホ」
「天をブッ倒そうって話」
 黒鷹の十文字以内の解答に、鶸は素直に理解していた。
「面白いじゃん!やろうぜ!」
「簡単だなぁオイ…」
「仲間になるか?」
「俺ら生まれた時からコンビだろぉ?今更そりゃねぇよ」
「決定。終了」
「単純だなぁオイ…」
 隼、ぼやきっぱなし。
「それでさぁ、お前の仲間にも、一緒に戦ってくれる人いねぇかな…?」
 黒鷹の質問に、鶸は聞き返す。
「俺の仲間って?」
「決まってんだろ、盗賊仲間」
 不意に沈黙が訪れた。
「アイツらに…?」
「今は一人でも多く仲間が要る。このままじゃ勝ち目が無いんだ」
「そりゃそうだろうけど…!殆どがまだ子供だぞ!?」
「…分かってる」
「盗賊とはワケ違うだろ!?子供使わねぇといけないのか!?」
「死ぬ事が前提なんて分かりきってる」
 鶸の叫びに、黒鷹はきっぱりと言ってのけた。
「なんで…」
 黒鷹の一言に勢いを削がれた鶸は、口元で呟くように言った。
「お前がそんな事するんだ?」
「……」
「お前が一番嫌いな筈だろ…皆を死なせる様な事」
「嫌だよ」
 それまで見据えられていた目が逸らされたが、相変わらずきっぱりと黒鷹は言った。
「でもやらないといけないんだ。多分皆死ぬだろうけど…それはこのままでも同じ。誰も現状維持を望んじゃいない、そうだろ?」
 視線を受けた隼は無言で頷く。
「人が増えればそれだけ負ける確率も減る…。残っているのはどうせ女と子供だ」
「だからって…」
 鶸はうなだれる。
「アイツらを犠牲には…」
「強制じゃない。お前らなら生き残っていけるだろう。戦なんかで死ななくていい」
 いくらか口調を優しくして黒鷹は言ったが、鶸は彼を睨んだ。
「お前を見捨てて生き延びろって言うのかよ?」
「それもアリだ。お前が居なきゃ子供達は生きていけないだろ?」
「…どうすりゃいいんだよ…」
 頭を掻きむしって悩む鶸。
「ま、お前が悩むより、皆の意見を聞いてみろ」
 本心とは裏腹の、突き放した口調で隼が言った。
皆が断る事は出来ない…それを判っている上で。
「そんな簡単に出来る決断じゃねぇし。俺達は待つから、その分泊めさしてくれ。今後どうするかも決めたいし」
 黒鷹は微笑んで言う。
「ああ。いくらでも泊まって行けよ…」
 沈んだ声の鶸から承諾を貰い、とりあえず解散という事になった。



「相変わらず仲間思いな、お前」
 三人が部屋から出、鶸の部屋には黒鷹が泊まる事になった。
「いいコトだろ。お陰で族長だぞ?」
「そうだな。慕われてるんだな」
「モテモテだ」
「それは違うだろ」
 黒鷹は布団代わりの干し草に寝転がる。
「盗賊って楽しいか?」
 鶸はいぶかしげに黒鷹を見た。
「何言ってんの、お前…」
「だよな」
 一人納得して黒鷹は続けた。
「何やっても生きていかなきゃならねぇんだよな」
「…そうだな」
 しみじみと、生きる為に悪事を働いた五年間を想い、ふと疑問が浮かんだ。
「お前、今まで何やってたんだ?」
 黒鷹は感情も無く答える。
「天に捕まってた」
 一瞬の沈黙、そして鶸は噴き出す。
「ダッセ!」
「お前そのリアクションは無ぇだろ」
 怒りと呆れが混じった声で黒鷹は言う。
「…大変だったんだぞ、一応」
「悪い悪い。悪いけどちょっと以外だったから…にしても、ダセぇ〜…」
「どーせ態度の割には非力でドジですよーだ」
 黒鷹は拗ねて見せる。
「ふて腐れんなって。冗談だよ」
 そう明るく言って黒鷹の顔を見た鶸は、そのまま固まってしまった。
 戸惑っている。
 初めて目にした、黒鷹の涙目に。
「ご、ご、ごめん!そんな酷い事言った?俺…」
 完全にうろたえて、確実に“気持ち悪い”と言われるであろう優しい口調になってしまったが。
 原因はそんな事では無かった。
 目をごしごし擦り、その手を顔に被せたまま、黒鷹は小さく謝った。
「自分でもワケ分かんねぇって思うけど」
 そう前置きして。
「牢の中でさ、生きるのも死ぬのも諦めてた自分が…なんか虚しくって…。鶸は生きようとしてたのに…俺は…」
 言葉にならないのを照れる様に笑った。
「お前が羨ましい。常に前向きなお前が」
「…言われてもなぁ…」
 態度の取り方に困って、鶸はがりがりと頭を掻いた。
「俺は…今もダメだ。皆死ぬとしか考えてない…」
 黒鷹の声はますます沈む。
「それが何より怖いし…そう考える自分が、そうしようとしている自分が、嫌だ」
「ああぁもう!!元気出せよー!!俺がシリアス責め弱いって知ってんだろぉ!!」
「俺はマジメに悩んでんだよ!」
「俺はお前のマジメに悩んでんだよ!!」
「……」
「とーにーかーくっ!誰も死にやしねぇよ。少なくとも俺は地獄の果てまでお前の相棒だ。一人で死ぬなんて思うな?」
「…逆に気持ち悪いな、それ」
「言うな」
 二人共テンションが元に戻った所で、眠気に襲われた。


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