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RAPTORS


 早朝、縷紅と隼、そして緑葉は、宿営地に戻っていた。
 帰るなり旦毘にばったりと出会う。進軍の準備をしていた。
「ご苦労様です」
 先に縷紅が声をかけた。
「え?どこ行ってたんだ?」
 門から入ってきた一行を、きょとんと見る旦毘。
「ええ、少し私用で…」
「隼と一緒に?それと…」
 旦毘は縷紅から隼に目を移し、隼から緑葉に目を移して言葉に詰まった。
「私の友人です。名は緑葉」
「ふーん。軍での知り合いか」
「ええ。我が軍に加わってもらえるとの事で、迎えに行っていたんですよ」
 縷紅はそう説明して緑葉に笑んだ。
 当の緑様は困惑した表情を浮かべている。
「天の軍はいいのか?」
 旦毘は緑葉に訊いたが、答えたのは縷紅だった。
「私と同様、あちらの軍に愛想尽かしたんですよ」
「ほぉー?ま、仲良くやろうな」
 まだ納得しかねている旦毘の横を通り、去ろうとしてふと足を止めた。
「戦力は足りていますよね?」
 旦毘はすぐに頷く。
「ああ。どうした」
「少しの間、隼は戦場に出られませんから」
「おい、待てよ!?何だよそれ!?」
 隼の怒鳴りとは裏腹に、旦毘はあっさりと了解した。
「ああ。そうだろうと思った」
 歩き出すと、当然隼は噛み付く。
「何だよ!?何で俺が出れねぇんだ!?」
「貴方の無謀な行動の結果ですよ」
「無謀って…」
「旦毘がその傷を見過ごす訳無いでしょう?」
 先刻の縷紅による刀傷。袖に血がしっかり付いている。
「このくらい何だって言うんだよ!?戦力外にされるような怪我じゃねぇし!」
「ケガはケガです。それに貴方には別の役目が」
「…役目?」
「緑葉の見張りです。旦毘にはああ言いましたが、一応捕虜ですからね」
「何であんな事言ったんだよ」
「…隼は緑葉に普通の捕虜として扱われて欲しいですか?」
「それは…」
「特別扱いですかねぇ。私としても改心したと信じたいし」
「…いいのか?そんな個人的感情で」
「……お願いしますよ」
 縷紅は緑葉と隼に笑んで見せ、踵を返した。
「どうして…」
 彼を見送ってから、緑葉が呟く。
「アンタの姉貴はそういう人だったんだよ」
 隼は言った。遠い昔を思い出しながら。
「あのカタブツに規則曲げさせる程の存在だ。殺しちまった負い目みたいなもんだろ」
「…負い目…」
「俺もそんなとこだ。…中に入ろう」
 言って、隼は天幕を潜る。緑葉もそれに従った。
「アイツの事、全部許したワケじゃねぇだろ?」
 寝台に腰掛けながら、隼は問う。
「今は…分からない。何が正しいのか、誰を恨むべきなのか…」
 緑葉は素直に胸中を言葉にした。
 それに頷いて、隼は言った。
「時々…今でも思う。何故殺したのかって」
「それは…」
「助けられといて何だけどな…。あの時思ったんだ、俺が死んでそれで終わるなら、それも悪くないって…。俺が死んであの人が生き残るべきだったのかもな」
「…でも、死んだのは姉貴だ」
「ああ。憎いのは俺も同じだ。姶良を殺したものが」
「……」
 隼は立ち、包帯を取った。
「俺も分かんねーんだよ、実は。何を恨めばいいのか」
 緑葉に背を向けて、軽く笑う。自嘲するように。
「あんな出会い方しなければ、こんな考え起こさなくて済んだのにな…」
 再び寝台に腰掛け、腕に包帯を巻き始める。
「…アンタの見た姉貴はどんな人だった?」
 ふいに緑葉が訊いた。
「…誰よりも良くしてくれた。こんな俺を」
「――優しかったのか」
「ああ。見た目で虐げたりしなかった…理解してくれて」
 あの頃、唯一そして初めて、信頼できた存在。
「いいな…そんな人だったのか」
「え?」
 緑葉の言った言葉に驚き、思わず聞き返す。
「いや、姉貴が、そんな人だったんだな、と」
 彼は恥じ入るように笑った。
「実は、あんまり知らねぇんだよ、姉貴の事。十才以上も歳違ってさ、俺が物心ついた時にはもう軍に行ってて。会うことなんて無かった」
 追いかけるように自身も軍に入り、そこで初めて出会った。
 それも、僅かな時間しか共有できなかったが。
「俺達、親が早く死んで施設で育ってさ…だから姉貴はあの歳で軍に行ったんだけど。…お前が俺の代わりだったのな。姉貴の“弟”」
「…そっか。そうだったんだな」
 自分に緑葉を重ねていたから…
「でもアレは全部…嘘だった…」
「嘘?」
 死ぬ前に言っていた。“全て調査の為”と。
「どうせ敵同士って事だよ、俺達は」
「…敵…か」
「もう終わらせたい。こんな事は」
 その為の、戦。「敵」を無くす為の。
「姉貴はお前の事敵だとしか思ってなかった…そんな事無いと思うけどな」
「…いや…そんなの全部思い過ごしだった。そう思いたかっただけ。俺が」
「何で…」
「あの人を殺したのは、結局俺だから」
「――…」
 包帯を元あった場所に戻し、隼は寝台に寝転ぶ。
「あーねみぃ…」
 心底から呻いて、腕枕を組み頭を置く。
「監視するんだろ?寝てていいのか?」
「別に、お前が逃げたところで痛くも痒くもねぇよ。咎められる訳でもなし」
「…嘗められてる気がする」
「気のせいだって。お前もそこで寝ていいぞ。寝てねぇだろ?」
「悠長だな」
「どうせ戦場出して貰えねぇもん」
 隼、拗ねる。
「…変なヤツ」
「んなっ!?」
 緑葉の一言に、思わず飛び起きた隼。
「もう一回言ってみろ!?どこが変だって言うんだよ!?」
「そーゆートコ」
 周りが濃ゆいお陰で本人に自覚が無い。
「ホントはすごいガキっぽいんだろ?何か冷静ぶってるけどさ」
「…ガキぃ?てめぇいい加減にしろよ」
「いいんじゃない?多分、姉貴はアンタのそういう所が可愛かったんだよ」
「…」
「お前が罪を負う事なんか、無いんじゃないかなぁ。それ誰も望んでないよ」
「…そんなんじゃなくて、事実だし」
「ふーん。おやすみ」
「…オイ」
 さらっと大事な事を流されて、立場の無い隼。
 緑葉は既に眠っていた。



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