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7.5畳に二人(仮)
特別編・正月と言っても普通の日だ!の話
新春特別編…?



12月31日午後10時
「なぁ龍、年賀状って書いた?」
「…年賀状?」
 白黒テレビで渋々赤白歌合戦を見ていた龍は、莱の言葉に顔をしかめる。
「‥ウチ、喪中だから」
「え?そうなのか!?」
「…誰が死んだって言うんだ、マジにするな」
 家を持たない少年が言うとシャレにならないのだが‥。
「っていうか、もちゅーって何?」
「…もういい」
莱には関係無かった様だ。

同日、午後11時
「来年って…ブタだよな?」
 隣でテレビを見ていた莱が唐突に聞いた。
「…ブタ!?」
「ほら、あの…星座じゃなくて、血液…違う、アレ、アレだってば!」
「…干支?」
「そうそう!ソレ!」
「あのなぁ…アレは豚じゃなくて亥だぞ…」
「え?猪?」
「違う、亥…まぁいい」
 この際、動物が同じなら漢字なんかどうでもいいかと思った龍だった。



同日、午後11時45分
「で、さぁ‥年賀状って…」
「またか」
 莱は少し躊躇い、言葉を探して、言った。
「誰にどうやって渡せばいいんだ?」
「……」
 簡単そうで有り得ないこの言葉の本意を、龍は必死に考えてしまった。
「…お前…それ…もしかして…」
 いやまさか、と思いつつ。
「年賀状…出した事無い…?」
「うん。無い」
 ごくあっさりと頷かれて、龍は一気に脱力感に襲われた。
「お前…本当に現代人か?」
「何だよ!現代人の尺度は年賀状なのか!?」
「…いや、有り得ねぇって話…」
 ほとほと疲れた様に、龍は額を押さえた。
「…とにかく、書くには書いたんだな?」
「ああ。猪だ」
 亥の件は既に諦めた。
 龍は莱から年賀状を受け取る。
「…これ、猪か…?」
 猪と言うより茶色い固まりに首を傾げつつ、肝心の宛名を見ようと裏返した。
「…これ、官製ハガキじゃん!」
「未完成のハガキなんか有るのか?」
「阿呆!!」
 今更だ。
「…ったく、しゃあねぇなぁ。朱書きするか…誰に出すんだ?」
「決まってんじゃん」
 少し拗ねた様な顔をして、莱は言った。
「龍、お前しかいない」
「……」
 ごーん、と。
遠くで除夜の鐘が鳴った。
 年が変わる。
 隣の部屋ではしゃぐ声が聞こえる。
 一方、この部屋では、奇妙な静けさのまま、年を越した。
「…俺?」
「他にいねぇもん」
 言われて龍は、改めてしげしげとその紙片を見つめた。
「…だったらさ」
 “今年もよろしく”の汚い字を見ながら、龍は言った。
「ハガキに書く意味無いだろ…」
「へ?」
「手渡しで済むだろ、勿体ね〜」
「あ、そか…」
 しゅんとしてしまった莱を見て、思わず龍は笑ってしまう。
「明けましておめでとう。今年もよろしく、な?」
「うん。おめでとう」
 莱も笑う。

 龍は膝を叩いた。
「しまったあぁ!俺様特製の年越しそば作るの忘れてたあぁ!!」
「いいじゃん、今からでも」
「駄目だ!年越す時に食ってないと駄目!!」
「そんなもんなのか…?」
「くっそ〜。お前の年賀状騒動のせいだぞ!」
「え?俺のせい!?」
 完全に八つ当たりだ。



1月1日――どんな年になるかなど、この二人には関係無かった。

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あきゅろす。
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