TRPGリプレイ 1ー44 「右肺を狙ったはずが、まさかこんな少年を庇うとはな……」 あまりの予想外、計算外のことに、白石の不満はおさまる様子を見せなかった。 その間に、ようやく復帰した彼の部下が合流する。 斬られた指や胸の傷は、上司と同様に塞がりはじめている。 「0037が死亡した……死体の回収と、人間の始末をしておけ。私は教授に報告に戻る」 白石は部下たちに指示を出したあと、そのままさっさと麓へと降りていった。 その間、少年少女に視線を向けることさえしなかった。 この場にいるのは、正人とミナ、そしてこの場に向かっている男たちだけとなった。 「ミナ! ミナ! しっかりしろ!」 必死になってミナに呼び掛ける正人。 少女の左胸と口から吐き出される大量の血が、正人の全身を自身と同じ色で染めていく。 すでに致死量をはるかに超える出血であった。 「はあ、は……がばっ!」 苦しそうに呼吸をしようとするミナ。 しかし、口から吐き出される血が、僅かばかりの空気を取り込むことすら許しはしない。 「死ぬな! 頼むよ……死なないでくれ……」 正人は正気を失いかけていた。 悪意ある者によって、大切な人を何人も失った記憶が、次々に甦る。 ある人は死んだ。 ある人は少年の前から、行方も知らせず去った。 そして今また、同じようにミナも……。 「……人……」 微かな少女の声。 虫の羽音よりも小さなその声を、正人は聞き逃さなかった。 [*前へ][次へ#] [戻る] |