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TRPGリプレイ
1ー42
 とっさに盾と槍を捨て、地につけた両手を軸に自ら転回。
 かろうじて完全に転倒することは避けられた。
 が……

 「叩き込め!」
 「はああああっ!」

 ……少年の指示、それに応える少女の咆哮。

 ミナが右腕の大剣を振るった。
 威力と衝撃を真正面から受け止める白石。
 槍も盾もない状態で防ぎきれるはずもない。
 氷の鎧をまとい、100キロを超えている彼は軽々と吹き飛ばされ、その先に立っていた一本の木に、背中を打ち付けられてしまった。

 「ぐっ……悪魔憑きでもないただの人間に!」

 地面に倒れ伏した白石は、元凶である正人を睨みつけた。
 正人がやったことは単純だ。
 ミナの後ろから飛び出し、突進する白石の顔面に横からおもいきり浴びせ蹴りを叩き込んだだけである。
 ダメージを期待しての攻撃ではない、相手の体勢、リズムを崩すための攻撃である。
 あるベクトルの力が加わっている状態に別のベクトルの力を加えると、元の状態はあっけないほど簡単に解除される。
 義務教育でも習う初歩的な物理法則の、実践的応用。
 上から押さえ付けた状態で縦に重ねられた空き缶を、横から押してみてほしい。
 どれだけ上から押さえ付けようと、わりと簡単に取れてしまうものだ。

 「すごい……悪魔化したあの人を」

 呼吸を整えながら、感嘆の声をあげるミナ。
 変身して身体能力が数段上がった白石を、普通の人間が倒す。
 ありえないことだった。
 それよりも、なによりも……。
 正人が、悪魔化した白石に、生身で立ち向かえる人間であること。
 そこに気づけたのは、少女にとってなにより嬉しい驚きだった。

 「今のうちだ、早く逃げるぜ、ミナ!」

 ミナに手を差し延べる正人。
 少女には、彼が自分を救いだしてくれる王子さまのように見えた。

 「うん!」

 姿は魔人。
 されど心は少女のままに、ミナは大きく頷いた。

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