TRPGリプレイ 1―31 正人とミナの唇が重なろうとした、まさにその時……。 「おほん!」 わざとらしい咳払いが丘の入口から発せられた。 正人もミナも閉じていた目を見開いて、入口に視線を集中する。 いつの間に現われたのだろうか、さきほどまで2人しかいなかったこの丘に、新たに3人。 そのうちの2人には見覚えがあった。 正人とミナが子猫を供養した時に現われた、いかつい男と細身の男だ。 どちらもあの時と同じようにスーツを着込んで、無機質な気配を漂わせている。 2人の男の間にいるのは、灰色のスーツを纏い、眼鏡をかけた男。 外見からして、20代後半から30といったところか。 女のように細く艶やかな髪をオールバックにまとめ、目は切れ長だが柔和で、鼻筋から顎にかけてのラインが美しい曲線を描いている。 教師や医者を思わせる知的なイメージとあいまって、細面の美形という表現がピッタリであろう。 「やっと見つけたよ、003……。心配で、朝も夜も探し回ったんだよ?」 外見を裏切らぬ、柔らかで上品な声で、男はミナに話しかけた。 男の言葉に、ミナは何も答えない。 ただ怯えと警戒の入り交じった目で凝視している。 「なんだよ、てめえ」 ミナの様子を見て、嫌な感覚を覚えた正人は警戒心を顕にする。 灰色のスーツの男はそれを平然と受け止めて、流暢に語り出した。 「これは失礼。私は白石、ある施設の職員をしている。わかりやすく言えば、ミナくんの教師であり保護者みたいなものさ」 白石と名乗った男は、正人とミナを見比べ、再び続ける。 「ミナくんは普通の人とは違う、とても特殊な人間でね」 「特殊?」 正人が疑問を口にする。 白石は柔和な笑みととも頷き、肯定した。 「私たちは、彼女のようなものたちを施設に招き入れている。ミナくんたちは、私たちの教育と保護なしには生きられない。そして数々の諸問題をなくすために、無許可で施設を出ることは厳禁、としている。……私たちとしても不本意なことだけれどね」 言い終わると、白石は柔和な笑みを崩すことなく、両手を広げる。 その姿は、迷子を迎えに来た親のようであった。 [*前へ][次へ#] [戻る] |