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TRPGリプレイ
1ー30
 どうにか打ち倒そうとした。
 だが、奴らは膨大で強大で、たかが少年一人で太刀打ちなどできはしなかったのだ。
 かくして少年は世界に失望し、人に失望し、無力な自分自身に失望した。
 そんな思いを2年あまり抱え、身も心も疲れ果てていた。
 そんな時、ミナに出会った。
 数日前に出会い、予想もしない行動に及んだ少女。
 ふとしたことから、一緒に子猫の供養をした。
 突然消えたかと思えば、翌日に突然現われ、再会。
 最初は変な少女だと思った。
 しかし、少女のいろんな表情、言葉、気持ちを知るうちに、いつのまにか正人の心に彼女の存在が根付いた。
 まだ、これほど心のきれいな人がいたことが嬉しかった。
 そんな人間は父や母、朱夜だけだと思っていたのに。
 荒れた心に光が差し、力が甦る。
 埋まっていた種が芽を出すように、少女への思いが生まれ育ち、今や花開こうとしていた。

「どうしたの?」

 もの思いに耽っていたからか、ミナの問い掛けに驚いてしまう正人。
 そんな正人の様子に、ミナは不思議そうな顔をする。

「大丈夫? ねえ、どうしたの?」
「……あー」

 生返事をするも、後が続かない。
 正人は腹をくくった。
 スマートな言い回しがてきるほど器用でもないのだ。
 恥ずかしくとも、思ったことを正直に言うしかあるまい。

「……きれいだな、って思ってよ」
「きれい?」
「まあ、かわいい……ってことだよ」

 言ってみたが。
 やはり、かなり恥ずかしかった。

「かわいい?」

 確かめるように正人の言葉を反芻するミナ。
 花が咲いたように、少女の白い頬がほんのり朱色に染まる。

 「ああ」

 答える正人の顔もまた、赤い。
 しばらく見つめ合う2人。

「あたしが……かわいい」

 恥ずかしそうに顔を逸らし、夢見心地に呟くミナ。
 抑えようとしても抑えきれない、歓喜と恍惚が少女から溢れ出している。

 「正人……」

 熱を帯びた少女の声。
 顔を上げたミナは手を胸で組み、瞳を閉じ、顎を引いた。
 その姿は口づけを待つ乙女そのもの。
 微かに震えているのさえ愛らしい。
 ……唇を前に出し過ぎて不自然になってはいたが。
 おそらく、こうしたことは初めてなのだろう。 それを笑う余裕は正人にはない。
 彼もまた、微かに震えながら両手をミナの肩に乗せる……寸前で虚空に停止させ、不器用に自身とミナの唇を重ねようとする。

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