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TRPGリプレイ
1ー29
 ミナは目の前の景色に、思わず息を飲んだ。
 2人がいるのは、神社の後ろにある山の中腹にある、小さな丘。
 人の手が加えられていないのか、柵も手すりもなく、安全性は最悪。
 しかしながら、そこからは大友市の住宅街、繁華街、そして海が一望できた。
 正人とミナが着いた頃には、空で黄昏の朱と夜闇の黒が混じり合い、なんとも感傷的な色合いを見せている。
 街には徐々に灯が燈り、それを眼下の川が街の向こうに広がる海が、優しく包み込む。
 優しい輝きは水の流れに従って、ゆらゆらと揺らめく。
 少女の瞳は、その色と輝きを余すことなく映し、きらめいた。
 感嘆の叫びをあげるように大きく開かれた口からは、しかし一言も発せられることはない。
 ゆっくりと数分経って、少女の喉からソプラノが漏れる。

「……すごい、きれい」

 熱を帯びた声は温かく、潤んだ瞳は街の明かりを写す鏡のようだ。

「だろ? とっておきの場所なんだぜ」

 素直に感激を表す少女を眩しく思いながら、少年は誇らしげに答えた。
 正人と赤矢が幼い頃に偶然に見つけた場所。
 その時も、こんな景色が広がっていた。
 世界にこんなにきれいものがあるのかという驚き、自分で見つけたという達成感。
 もう10年近く前の出来事にも関わらず、その時の感動は色褪せない。
 ……さきほどまでは。
 今、少年はそれよりもきれいなものを見ていた。
 視線の先にはミナがいる。

(まだ、こんなやつがいたんだな)

 正人が心の中で、安堵と感嘆の溜息をつく。
 正人にとって、自分が生きる世界とは薄汚れたもの。
 他者のそれとて例外ではない。
 父が自分と母の元から去ったのも、友が深い心の傷を負ったのも、全ては悪意ある者と黙認した者の所業。
 正人は怒り、そして彼らを憎んだ。

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