[通常モード] [URL送信]

TRPGリプレイ
1ー27
 極力目立たず、かといって場違いでもない装いで、赤夜は祭りを楽しむ雑踏の中にいた。
 祭りを楽しむために来たわけではない。
 彼、黒桐朱夜にとって、これはリハビリなのである。
 2年ほど前から続く、人間不信とそれに伴う不愉快な症状の。
 つい最近までは、家から出ることもなく、症状がどうなろうと関心はなかったのだが。
 自分に起きた変化、それに関連し、目的実現の目処がたったことで、リハビリの必要が出てきた。
 そのため、最近はこうして街へと出て、人ごみの中に己が身を投じている。

(それにしても……)

 これほどうるさかっただろうか。
 人々の声が、人々が生み出す喧騒が。
 自身の感覚が鋭くなったせいか。
 それとも、心に刻まれた傷が、自分でも分からないうちに疼いているせいなのか。
 しばし思考を巡らせてみるものの、答えは出ない。

(いきなり賑やかな場所は無理だった、ということかもしれないな)

 数日前の朝、同じようにリハビリをしていたら、中学来の友人に再会した。
 友人は変わっていた。
 良い方向にではなく、悪い方向に。
 朱夜の記憶にある正人は、あんなにもギスギスとした感じではなかったはずなのに。
 それでも自分を覚えてくれていて、話しができたのは素直に嬉しかった。

『なんかあったら、力になる』

 そう言ってくれたのも、やはり嬉しい。

(……とはいえ、それに甘えるわけにもいかない)

 そう、これは自分一人でやることだ。
 手助けなどは論外。
 否、禁忌だ。

(さて――)

 これ以上、この場にいても意味はない。
 そう結論づけた朱夜が来た道を戻ろうとした時、携帯が着信を告げた。
 画面には『上田正人』の表示。
 すぐに通話ボタンを押し、構える。


[*前へ][次へ#]

28/103ページ

[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!