慕恋多隠:庭球 K.Tdk夢
「もうすぐバレンタインな訳ですが。」
「すまない。」
新年明けまして2月目に突入し、なんだかすっかりのんびりムードが抜けない今日この頃。
あと1週間足らずで来るバレンタインを控えた恋する乙女と致しましては是が非でも愛する彼氏と過ごしたいと思う訳で。
そこに立ちはだかったのは彼氏の立場。
私の彼氏…もとい手塚国光は生徒会長と全国区のテニス部の部長を兼任し、さらに成績でも学年トップを保持するという凄まじい肩書きの持ち主である。
だから忙しいのは分かっていたのだ。
分かっているさ。
「分かってたんだけどねー……。」
「じゃあ諦めたらどうだ?そしてなぜ俺の所へ愚痴りに来るんだ。」
目の前には何故か愛する彼氏ではなく逆光眼鏡。
眼鏡繋がりでも180度違う……と信じたい。
取り敢えず国光の方が格好いいと思う。
「声に出てるぞ。」
「うるさいよ。私だってねぇ、何も好きで乾と居るわけじゃないの!!君が決めた練習メニューのせいで国光と会う時間が減ったんじゃないの!!
大体、ハロウィンとクリスマスとお正月は平気だったじゃないの。責任取んなさいこのーっ!!」
「じゃあ言わせて貰うがハロウィンクリスマス三が日は本来練習予定日だったものを少しでもお前らの為に時間を作ってやろうと譲歩してやったんだぞ?
しかも今度のバレンタインは元々平日だろうが。どうせ学校に来るのだからその上元々部活の予定が入っているのだから目いっぱい部活に励んで何が悪い。」
「テニステニスってねぇ……あんたはそんなだから彼女が出来ないのよ。」
どうだ!言ってやったぞ!!
「いや居るけど。」
「は?」
「付き合ってる奴、居るけど。」
一瞬、思考が止まる。
「うっそおおおおおおおおおおおっ!?」
「失礼な奴だな。俺に彼女が居る事がそんなに以外か。」
「いやいやいや、ってかだったら彼女さんだって黙ってないでしょ!!普通付き合い出したらバレンタインくらいは一緒に居たいと思うもんでしょ!?
それともその彼女さんはそんなに物分りがよろしくていらっしゃるのかしら?」
「『テニス部はファンが多い。従ってバレンタイン当日はファンの波に追いやられてどうせろくに練習も出来まい。
とは言え、かの手塚国光が部長をしている限り部活は中止にはならんだろうし、付き合っているからと言ってコート内に入れて貰えるとも思えない。
当然そんな中で、のんびりしたりどこかへ寄ったりましてや君にチョコレートを渡す事なんて出来る訳が無いだろう?以上の事を踏まえても今年君にチョコを渡すのは無理そうだな諦めろ。
ああ、もし他の子からチョコやプレゼントの類を受け取ったりましてや返事をしたりしたら次の日『学校の屋上からタロットカードよろしく吊るされた男』が校内新聞のトップを飾ると思いたまえ。』……と言って
チョコケーキを渡して帰っていったよ。」
その発言を聞いて思わず乾に同情しようかどうしようか迷ってしまった。
「強い……強すぎる……それは一体どこのどなたですか。」
「滅唄はよく知ってると思うよ。それとさっきの練習メニューの件だが最終的に決めたのはお前なんだから俺に尻拭いをさせるな。」
「それはすまない。」
最後の乾の言葉は何故か私の後ろに向かって放たれたように聞こえた。
そして聞きなれたこの声…。
「国光!!」
「ここにいたのか。」
「え?ああうん生徒会の話し合いは終わったの?」
「先程終わった。待たせたな。」
「いや別にいいよ。早く帰ろ?」
「ああ。」
そう言ってふと乾の方を見た国光がぼそりと一言。
「ハロウィンクリスマス三が日を休みにしたのは俺達の事を慮ったのではなく自分の都合だろうが。」
「ばれたか。」
ふん、と呆れた顔をした国光は私の腕を引いてさっさと教室を出てしまったものだから、さっきの言葉がどういう意味か良く分からなかった。
「ねえねえ、さっきのってどういう意味?」
帰り道。
二人並んで手を繋ぐ。
滅多に一緒に帰れるなんて事は無いから自然に気持ちが弾む。
「さっきの、とは?」
「だから、ハロウィンクリスマス三が日が休みだったのは乾の都合……っての。」
「あれはそのままの意味だ。」
「そのままったって。」
思い当たるのは乾が付き合っているという彼女の話。
「彼女さんか。」
「ああ。イベント毎に部活を休みにしたがる乾の提案を呑んでいたら、『随分とイベント事に心血注いでいるようだがそんな事で全国に行けるのか?最近の中学テニスは随分とちょろくなったものだ。実に嘆かわしいね。
大体クリスマスとお正月は良いとしてもハロウィンまで休みにするとはどういうつもりだ。君達はテニス部なのであってイベント部では無かったはずだ。
もしそんな生半可な思いでしか練習できない軟弱共が部内にはびこっているというのならば僕が全員渇を入れ直してやったって構わないんだぜ?
まあ、もしもそんな事になったら一番初めに犠牲になるのは乾の馬鹿かそれを認めた君になるのは確実だがな。』と言う半ば脅迫紛いの嫌味を奴の彼女に言われたからな。
恐らく奴がなにかやらかして彼女に叱られたのだろう。」
「だろうって……。」
そんな事で一大イベントをチャラにされたこっちの気持ちにもなって欲しいものだと思う。
しかもなんだかんだで結局乾は貰う物は貰っているのだ。
「あ、そうか。私も国光にバレンタイン前に何かあげればいいんだ。」
「いやその必要はない。」
急に国光が歩みを止めて私を見た。
「……なんで?」
まさか要らないとか言われるんじゃ……そんな事言われた日には号泣ものである。
「バレンタイン当日だが、俺の家へ来ないか?」
「………………へ?」
予想と大きく外れた提案に間抜けな返事しかできなかった。
「たしかに部活を中止にする事はできない。しかし、陽音々が楽しみにしているのを見ているからな。そちらも無下にはし難い。」
「だからっていきなりお邪魔するのもどうかと。」
「いや、その事を母親に伝えたところ、是非家に招待したいとの事だった。陽音々の都合さえ良ければ家で夕飯を食べていけ。」
なんと手回しの早い奴。
でもすっかりバレンタインを一緒にすごす事を諦めていた私には願っても無い提案。
一も二も無く頷いたのだった。
その夜。
pipipi…………
「あれ?メール……」
携帯を開くとそこには見慣れた友人の名前が。
From:ひねね
Sub:すまん!!
――――――――――――――
諸事情でテニス部のバレンタイン企画を潰してしまった。
悪気は無かったんだ!!
決して陽音々と手塚の仲をどうこうしようと言う邪な想いでは無いんだ!!
本当に悪かった。。
「お前かああああああああああああああっ!!」
翌朝、すまなさそうに謝る友人をこれでもかとからかったのはまた別の話。
Fin.
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