同じ予備校で 隣の席で そんなありふれた偶然で恋に落ちたんだ。 緊張でいつもそんなに話せなくて、今日こそはと何度も思って勇気を貯めていた。 授業が終わって帰ろうとする彼女に、去られたくなくて慌て声をかけた。 「てっ、寺門…っ!」 呼び掛けに反応して振り返る彼女。 「あ、あのさっ、家の方向同じだろ?よかったら一緒に帰らねぇ?」 内心どきどきしながらそれでも俺は言いきった。 「うん、いいよ」 出した勇気が報われた瞬間だった。 予備校の階段を降りて出口に近付くと、雨が降っていることに気付いた。お互いにどうしようかと話し合っているところに、妙な男が出口で大きく手を振っているのが目に入った。一方の手には可愛いドット柄の傘を一本握っている。 「真白殿ーv」 「Σ!?」 満面の笑みをして大声で彼女の名前を呼ぶ男。彼女の表情が固まったのは気のせいじゃない。 「迎えにきたでござるよー!」 「幸村!どうやってきたの!?」 「真白殿の妹御が地図を書いてくれ、佐助が送ってくれたでござる」 「あいつらぁ〜!」 嬉しそうにニコニコ笑う男に反して、彼女は不機嫌通り越して怒っている。 「そうでござる。佐助から預かって参った」 「なに?」 男から二つ折りの紙を受け取り、それを広げ見た彼女は数秒固まった。 「っだったら、連れてくるなー!」 そう憤って紙をグシャグシャに丸めて雨の向こうに放り投げた。 「寺門…;」 「あ、高島くん」 ようやく俺の存在を思い出したらしい彼女と一緒に男もこっちに向いた。 「真白殿のご学友でござるか?某は武田ぐ「ごめん、高島くんっ!私、コイツと帰るから!;」 自己紹介しようとしたらしい男の口を塞いで、彼女は慌てた様子で帰っていった。俺はその後ろ姿を呆然と見送るしかできなかった。 「何なんだ、アイツ!俺の方が先に誘ったのに…っ!」 「…それで俺が突撃されたワケか」 げんなりと慶次は事情を悟った。 今、自分の胸を借りて悔し泣きをしてる小柄な少年に帰ってくるなりタックルされ散々悪態をつかれたのだ。挙げ句、こうして泣き喚かれる始末。 「ちょっとばっかデカいからってぇ…っ俺だって、俺だって…!」 「うんうん、そうだな」 この少年と比べれば大概の男はちょっとばっかデカい、と思うだけに止め慶次はよしよしと少年の頭を撫でてやる。 帰って早々浴びせられた罵りの数々はやつ当たりだったみたいだ。 「なんだい、そいつ彼氏だったのかい?」 「違うっ!……と、思う」 「何だ。まだ判んないなら見込みはあるさ、また頑張れよ」 「ウン…」 涙を止めて頷く少年の髪を励ましを込めて撫でる。 「まだまだこれからだ、な?」 こくり、と頷く少年に慶次は微笑む。 「とにかく風呂行って来い。そんな濡れ鼠じゃ、男前も台無しだぜ花葉」 「…名前で呼ぶな」 「それでこそ花葉だ。牛乳温めたヤツ作っておくから、早く上がって来いよ」 慶次の言葉に素直に従う少年は珍しく愁傷だ。 「やれやれ、恋する男は大変だねぇ」 肩をすくめて台所に足を運ぶ。 たとえ振り絞った勇気が台無しにされても また少しずつ貯めればいい 友の励ましだったり 温かいミルクだったり 今日涙した分、また明日頑張ればいいさ。 夢にまでみたような世界は争いもない平和な日常、でも現実は日々トラブって… この逆トリップネタ書いてるとBLEACHのOPが浮かびます。戦国じゃない平和な現代に来たはずなのにドタバタしてますね、みんな… ちなみに佐助さんの書いたメモの内容は、 『旦那、方向オンチだからちゃんと一緒に帰ってやってね♪』 です(笑) |