よく晴れた日は












その日は晴れていて、いい天気なもんだから、

「絶好の洗濯日和だよねぇ」

そう思って、暇だしと洗濯機を動かす。文明の利器って便利だなぁ、と感心しつつ手際よく分別してネットに入れたり幾つかスイッチを押してゆく。
終わるまでの間も暇だから、部屋に掃除機をかける。

(また怒られるんだろうなぁ…)

知らず苦笑が滲む。勝手に触るなと禁止されているコトなのだが、かと言って他にするコトがない。
女のコだから気にするのも解るが、親切好意のつもりでやってるコトを怒られるのも妙なものだ。
何もするなと厳命される居候なんて、

(そんなに俺様って厄介者かねぇ)

些細ながら気にしつつ、鼻唄まじりに洗濯物を物干し竿に広げた。



こんないい天気に部屋でじっとしていられない。
かと言って約束を破る訳にも行かず。

(真白殿、まだでござろうか…)

ただただ彼女の帰りを待つ我が身。
今頃、彼女が勉学に励んでいるのだから自分も同様に努力しなければ、と思うのだがどうにも彼女の本たちは難しくすぐ断念してしまう。

(参考書とあるが参考にならないでござる)

特に数学、化学とやらに至っては完全にお手上げだった。
部屋から出るなと言われているが、何もしないでじっとしているのは辛い。

(早く帰ってきてほしいでござる…)

ベランダからその姿を確認するぐらいならいいだろうか、といてもたってもいられずガラス戸に手をかけた。




「あ゛ー…一服してぇ」

禁煙家どころかheavysmokerなこの俺がこっちに来てからと言うもの全く吸っていないなんて。
ソファーの上でだらける。禁断症状にでもなりそうだ。

(せめて彼奴が代用品になれば、少しはマシなんだがな…)

口寂しいのが解消されればこっちは問題ないのだから、別に草でなくてもいいのだ。

(あるにはあるんだけどな)

おもむろに吸いかけの一箱を取り出す。何時だったか女にもらったヤツだ。あるにはある。
しかし、吸えない。
部屋にヤニがつくだなんだと家主が煩いのだ。これでも居候として気を遣っている。
だが、我慢にも限界がある。

(…外で吸や、気付かれないで済むか?)

文句さえ言われなければいいのだ。
ひょっこりと体を起こして、さくさくとベランダへ向かう。
ガラス戸を後ろ手に閉めつつ一本くわえると、隣から鼻唄が聞こえてきた。
気を引かれて何気なくそっちを見ると、明るい髪をした男が洗濯物を楽しげに干していた。
俺が黙って見てると気付いてこっちを向く。男は思った通り固まった。

「竜の旦那!?」

「Hi…」

俺自身多少驚きつつも、片手を上げてみせた。

「何でこんなトコいんの!?;」

「そりゃ、こっちのセリフだぜ」

そこに反対側から戸の開く音がした。

「真白殿はそろそろ帰ってこないでござろうか」

「旦那っ!!?」

振り返ると赤いハチマキをした男が。一つ挟んだベランダにいた洗濯男は思わず俺のいるベランダの方へ身を乗り出した。

「むっ?佐助!お前も来ていたのか!?」

伊達殿も、とハチマキ男が驚いてこっちに向いた。

「俺はついでか、真田幸村」

「そのようなコトは…っ;しかし、どうしてソコに?真白殿の兄上の部屋でござろう??」

「旦那こそっ。ソコ、明日羽ちゃんのお姉さんのトコっしょ!?」

「「「あ゛ーーっ!!!;」」」

ちょうどその時、家主が帰ってきた。


「こらー、政宗!煙草吸うなって言っただろ!?壁、ただでさえ白いんだぞ!?」

「だから、こうして外で吸おうと…」

「アホ!戸開いてちゃ意味ねぇだろっ、第一匂いがお前から家具につく!」

そう血管浮かせて政宗の胸倉に掴みかかる長男、日向。


「何ベランダに出てんの!?お兄たちに見つかったらどうすんの!」

「しっしかし、じっとしておられず…;」

「だったら、テレビとかゲームとかすりゃいいでしょ!?…あ、ゲームは私が封印しちゃったけど;」

受験勉強で少し鬼気をはらんでいる長女、真白は幸村を叱った。


「きゃあ!?何てトコロにいるんですか、佐助さん!?;」

「え、でも、明日羽ちゃん」

「と、とにかく降りてください!危ないですっ!;」

ベランダの手摺に乗る忍の姿を見て、血の気の引く次女、明日羽。

それぞれが居候につめよって、初めて自分たちの家族の存在に気付いた。


「「「………あ……」」」



兄妹はそれぞれ固まった。



寺門家の受難は続く。











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あきゅろす。
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