「ひなたぼっこ、好きなのね」 「ひなたぼっこではない。日輪を仰いでいるのだ」 「あら、そうなの?」 どう違うのかは判らないけれど「ひなたぼっこ」て言う方が可愛くていい、と微笑すると細い眉がしかめられた。 本人は無表情だと思ってるみたいだけど、判りやすい。 「まぁ、どちらでもいいけれど。でも、そんなに太陽浴びてると皮膚ガンになるわよ?」 コーヒーを淹れながら忠告してあげる。 1日のほとんどを縁側で過ごす物好きさんは季節が季節なら熱中症で倒れそうな痩身で、僅かばかり心配に感じる。 「それ程、我は柔ではない」 「現代の紫外線を甘く見たらダメよ。オゾン層が穴だらけなんだから」 知らない単語を使ったせいか怪訝なカオがこちらに向く。 「紫害線の間違いではないか」 「それでもいいかもしれないわね」 「紫は何時でも我を害する色だな…」 そう嘆息する様子は何かを思い出しているみたいだ。どうやら紫色が嫌いらしい。 「そんなに太陽が好きなら、そのうち光合成でもできるようになるんじゃない?」 「『光合成』とは日輪の光を糧とする術か。そう成れるなら望む所だな」 冗談のつもりで言ったのに大真面目に返されたから、つい吹き出してしまった。 「っふふ、本当に好きなのね。でも、体が緑になりそうで怖いから遠慮してほしいわ。貴方の場合、浴びすぎているぐらいがちょうどいいみたいだし」 「どういう事だ…?」 淹れた彼の分のコーヒーを渡して苦笑してみせる。 「だって、羨ましいぐらい白過ぎるもの。貴方は少し日焼けした方が健康的だわ」 私が努力で美白を保っているのに、UVカットもしてないのに顔色悪く見えるぐらいに色白な顔は端正に整っている。女として少し悔しい。 「…古館」 「なぁに?」 「そういえば、そなたは我の言葉を信じるのだな」 「だって、貴方コスプレなんてしなさそうだもの。信じちゃいけなかったの?」 初対面を思えば疑いようはない。 「我なら、信じぬ…」 だから私の態度が信じられないと渋面でカップの黒い水面に眼を落とす。 「我がそなたであれば、狂言甚だしいと警察とやらに通報する」 「でしょうね」 しそうだわ、と頷いて私が喉を鳴らして笑っていると、難しいカオがこちらを見た。 「そなたは『疑う』という事を知らぬのか…?」 そのカオが私を笑顔にする。 「あら、大丈夫よ。嘘をついているかいないかぐらい見分けられるわ。疑う余地がなかっただけよ」 それでも納得いかないみたいで、逆に余計不可解になったのか表情の渋さが増す。 理解できない彼が何だか可愛くて可笑しかった。 「こうして、私を心配してくれる人が私を騙すワケがないでしょう?」 貴方が騙すならそんな愚かなコトはしない、と確信していた。 図星だったらしく目を見開いてから顔を逸らされた。 「私の思い上がりだったかしら?」 「……そなたはおかしい」 小さく呟かれた悪態は見下しも何も感じなかった。 答えず、私はただ笑みを深くした。 そうして、逸らした彼の代わりに日輪を見上げる。 空は晴れ渡っていて、キラキラとキレイだった。 飽きることなく彼が見つめるのも解らなくもない気がした。 |