ある朝のコト。











「…ネムイ」

リボンタイをほぼ無意識でつけながら、呟いた。

「おい、シャツのボタン止めてからにしろ!」

怒る、とゆーより慌てて咎められた。手元を見下ろしてみると確かにシャツが全開になっていた。
直さないといけないと解りつつも億劫でフリーズしていたら、焦れたようにゴツゴツと骨張った男の手が胸元に伸びてきた。

「ぼーっとしてねぇでさっさと身繕いしろ。もう飯食う時間もねぇぞ」

急かない私の代わりにとでも言うように、銀髪の男が忙しく丁寧に下からボタンを止めてゆく。

「…セクハラ…」

「だったら、俺にさせるなよ…;」

ぼそりと呟くと、がくりと肩を落とされた。でも、私からしたらそっちが勝手にやってるコトだ。
一番上だけ残して止め終えると何気無くリボンを直してくるし。まぁ、本気でセクハラだと思っていたらこんな身元不明な男は警察に突き出しているけど。
されるがままになっていると、蒸しタオルで寝癖を直され髪をとかれ、せめてもとリップを塗られる。

「おっし。できたぞ、梨園」

私は何もしてないのに、出かける支度ができてしまった。

「可愛いぞ」

満足そうに言って、自分で整えた髪を乱暴に撫でる。
笑ったカオは快活で男らしい。さっきまで女々しく世話を焼いていた時とは大違いだ。

「ありがと…」

「おう。そうだ、パンでもいいから何かくわえてけよ?朝抜くと貧血起こしやすいからな」

第一肌に悪い、と気遣いが妙に細々しい。自分のコトでもないのに何でこんな細かいんだろう。

「くわえて行くんだ…?」

「ゆっくり行く時間もねぇだろ。ほら、行ってこい」

「…行ってきます」

クリームパンを渡されて玄関先で見送られる。

(デリカシーあるんだかないんだか…)

大雑把なのか敏感なのかよく判らない。一体どっちなんだ。

「あら、梨園ちゃん。お早う」

「あ…、古館さん。おはようございます」

お向かいのお姉さんに声をかけられた。

「最近はお寝坊も寝癖がハネてもないのね」

ふふ、と感心を込めて微笑される。

「はぁ」

家に厄介者が一人いるので、とも正直に言う訳にも行かず、曖昧に頷いておく。

「好きな男(ヒト)でもできたの?」

(男はできたが…)

からかうでなく訊かれた問いに首を傾げてしまう。微妙な問題だ。

「あ、古館さん」

「なぁに?」

「服装とかに煩い男性ってどう思います?」

「オシャレしたのに気付かない男(ヒト)よりはいいんじゃないかしら。些細なコトに気付いてくれたり、素直に褒めてくれる男の人は稀少よ?」

「そういうもんですか…」

あの男は普通にするが、世間的には珍しいのか。

「ところで、梨園ちゃん」

「はい?」

「学校に行くところじゃなかったの?」

「あ゛…」

遅刻だ、とクリームパンを手に立ち尽くした。

帰ったら折角身だしなみしてくれたのにゴメンと謝ろう。
何だか稀少らしいしね。



家に帰ったら、そう思ってくれる前にまず焦って走るくらいしろと脱力された。









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あきゅろす。
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