陽の香














「ありがとうございましたー!」

キャップの鍔を摘まんで、元気よく青年が頭を下げた。

「おーい、こっち頼む」

「あっ、はい!」

爽やかな笑顔で客を見送った青年は、上司に呼ばれてすぐさまそれに呼応する。

(…ん?)

踵を返した時、ふと気になる姿が目に入り足を止める。
前の歩道を横切る人の中に、足元の覚束無い男が一人。明らかに顔色が悪い。今日は気温が高いし陽射しも強い、あんな痩身では調子が悪くなるのも無理はないかもしれない。
大丈夫だろうか、と思って見ていたら案の定、ふらりとその場に崩れ膝ついた。

「っ! 大丈夫ですか!?」

慌てて駆け寄ると、顔を持ち上げて蒼白な色で睨み付けられた。

「…近寄るな。我に構うではない」

その視線は他人の畏怖や反感を買うものだったが、近付いた青年は堪えない様子だ。

「え、でも…」

「寄るでない…」

手で口元を押さえて拒絶する男の様子を見て、青年は何かピンと来たようだ。

「すみませーん」

青年はちょっと待っててほしい、と言って一旦職場に戻って上司に休憩をもらい、私物を取ってすぐに戻ってきた。

「ちょっとすみません」

「…っな゛!?」

断りをいれるなり男を担いで適当な噴水の近くのベンチに降ろした。

「な、なに…」

男が文句を言おうとしたところに顔に何かを被せられる。

「ソレまだ使ってなくてキレイなヤツですからっ、それとコレ」

覆われたをタオルを取った目の前にミネラルウォーターのペットボトルを突き付けられる。

「どっちも俺ので悪いんですけど…」

申し訳なさそうに笑う青年に、男は呆気に取られる。

「…………何故、判った…?」

「実を言うと、俺もあの匂いダメなんですよね;」

頭をかきつつ苦笑する青年を怪訝に男が凝視する。

「働いているのにか…?」

「だって、時給いい方だから」

けろっとそう言ってのける青年を、男はさっぱり理解できなかった。眉を寄せて見つめていると青年は何を勘違いしたのか狼狽えた。

「Σあっ、すみません! 俺も側にいちゃ気分悪いですよね!? 服に匂いついてるし、ファブリーズがあれば…;;」

慌てて数歩後ろに下がる青年に男は素っ気なく呟く。

「…構わぬ」

「へ?」

「貴様は不快ではない…」

その言葉を聞いて安堵して笑う。

「あ、でも、そろそろ休憩が…;」

「…行くが良い」

「いや、でも…」

「気分は大分ましになった」

「なら、よかった」

じゃあ失礼します、とキャップを外して頭を下げて走り去って行った。
不快な匂いではなく笑顔を残して遠ざかる青年の後ろ姿を見送っていたところに声がかけられる。

「見つけた」

周りが陰ったかと思えば日傘を傾けられていた。

「…古館」

「『一人じゃ出かけられないでしょ』って言ったそばから出ていくコトないでしょう?」

呆れと心配を半々に古館は苦微笑を浮かべた。そんなに遠くに行っていないとはいえ、心配したのだ。

「で、そのタオルとかどうしたの?」

「……似た男に会った」

「誰に似てるの?」

「疎ましい男だ」

しかし、

「彼奴は、不快でなかったな…」

太陽を思わせる笑顔。
それは同等なのに。

「そう。じゃあ、私は不快かしら?」

微笑をもって尋ねる古館に元就は静かに振り返る。

「不快で出たのではない…」

「それはよかった」

先程の青年の笑顔と古館の微笑みが重なった。

(ああ、そうか――)

「戻りましょうか」

分かった、と頷いて元就は古館と連れだって、日傘の下帰路に着いた。

不快に感じなかった訳、

(古館にも似ていたのだな)

だから、傍にいれたのだ。













判んないかもな、ってコトでバラしときます。
青年は日向で疎ましい男は兄貴のコトっす。太陽つながりで似たとこあるんじゃないかと…






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