…チク 「いた…っ」 …チク 「あぅ…;」 …プス 「…った(涙)」 「………;;」 数拍置きに洩れる声に、努めて気にしないようにしていた佐助は読んでいた料理本を下げる。 「…あ゛の、明日羽ちゃん…?;」 「何ですか…?」 振り返った明日羽の目には涙が滲んでいた。それを見咎めて佐助は苦笑を誤魔化そうと愛想笑いを上乗せした。 「あの、さ…何なら、俺様がやろうか…?」 「ダメです!」 涙で潤んだ瞳を尖らせて明日羽は佐助の協力を拒んだ。 家庭科の宿題で巾着を作るコトになったのだが、それは進みの遅い明日羽だけに出された課題だった。ある意味、教師の親切だ。 「コレは私の宿題なんです! ズルはダメですっ」 「いや、でもさ…;」 「ダメっ、絶対ダメです! 私一人でやれますっ!」 「………;;」 断固として断る明日羽。その頑とした態度は真面目さゆえか、家事全般こなす忍への対抗心からか。 (あっちゃぁ〜…;;) こうなってしまったらもう聞かない、と佐助はそれ以上の言及を断念した。 頭が固い生真面目さん、というより意地っ張りと言うか頑固と言うか。 明日羽は懸命に布と格闘している。そのカオは真剣そのもの、今声をかけても聞こえないだろう。 自分の手でやり徹そうとする、その姿勢は (偉いんだけどねぇ…) 佐助は微笑ましさの中に苦笑を混じえた。 (だけど…) 数時間後、 明日羽は悔しそうに自分の手を見つめて、涙を目に溜めていた。 縫っていた布は佐助の手の中にある。 明日羽の両手の指には沢山のバンソウコやテープが巻かれていた。 ――結局、 (こうなるんだよねぇ;) さくさくと縫い進めていく佐助はそっと空笑いをした。 予測が出来るから、申し出たのに。だから、前もって言ったのだ。 でも、そんな努力家な明日羽が可愛いと思う。 しかし、針を持った方の手まで傷付けられるなんてある意味器用だな、と佐助は内心感心した。 |