大事なキモチ














「ん?そりゃ何だ、夢吉」

慶次は何かを持ってきた小猿が肩に登ってくるのを待って、それを手に取った。

「こりゃ、文(ふみ)か?」

首を傾げて宛名を見ようと封筒を裏返そうとした時、背後からバタバタと慌てた足音が近付いてきた。

「猿ー!俺の返せぇ!!」

鬼気迫る形相で小猿を追いかけてきた少年に慶次が振り向く。

「この文、花葉のか?」

「っ!?///;返せよ、慶次!」

必死な様子にピンときた慶次は悪戯心をくすぐられる。

「コレ、切手張ってないけどいいのかい?ないと届かないんだろ?」

「いっ、いいんだよ!出さないから!;」

「出さないのに文を書いたのか?」

「〜〜っ!!///;」

にぃ、と笑う慶次に花葉は顔を真っ赤にして上目に睨み付ける。

「もしかして、コレ恋文か?」

「うっ、煩いな!何でもいいだろ!?とにかく、返せよっ///」

「いいぜ。取れるもんなら取ってみな」

そう言って封筒を上に掲げた。体躯のいい慶次と小柄な花葉では届かない高さだ。

「返せぇ、バカ慶次!!」

「ほれほれ、そんなんじゃ取れないぜ」

「アホー!ふざけんなっ!」

パタパタと手を伸ばして花葉は封筒を取り返そうとするが、そうすると慶次がもっと高くに封筒を掲げる。ぴょんぴょん跳ねたりして花葉は一生懸命だ。

「一体誰に宛てたんだ?」

「見るなぁっ!!///;」

「出せないなら、俺が出してやろうか」

「いらねぇコトすんな!お節介野郎っ!」

「なんだい、ヒトが親切で」

「いらねぇっつってんだろ!?」

「そんな恥ずかしい内容なのか?俺がちぇっくしてやろう」

「わ゛ー!読むなぁ!!///;」

高く掲げたまま封筒を開けようとする慶次。
さすがに花葉はもう限界だった。

グイッ!!

「いってぇ!?」

身長が届かないから慶次のポニーテールを目一杯引っ張った。その痛みに慶次は涙目になる。

「何も髪引っ張るコトねぇだろ花葉…」

文句を言おうと振り返ると、慶次は固まった。
花葉は顔を真っ赤にして目に涙を滲ませていた。むっつりと俯いている。

(…げ)

やりすぎた、と慶次は後悔した。

「……返せ…」

恨みがましく花葉は呟いた。

「わ、悪ぃ、花葉っ;返すから、泣くなよ。なっ?」

「泣いてない…」

花葉に本気でヘソを曲げられると慶次は弱かった。

「悪かったって、別にバカにするつもりじゃねぇぞ?せっかく書いたんだから渡したらと思って…」

「…意味ない」

呟かれた消極的な科白に慶次は思わず反論しようとする。

「そんなコト、」

「自分の、俺の口で伝えないと意味ない」

だから手紙じゃダメなんだ、と花葉は言った。
その言葉に慶次は目を見開き、それから嬉しそうに笑った。短くハネた髪を強めに掻き撫でる。

「そうだなっ」

この少年は大事なコトをちゃんと解っている。

「……慶次、ホントに悪いと思ってんのか?」

笑顔の慶次を花葉はじとんだ。

「思ってる思ってる♪」

「やっぱバカにしてんだろ」

「違うさ」


バカにしてるんじゃなく、
誇らしく思ってるんだ。












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あきゅろす。
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