「ん…」 朝日の眩しさに身じろきすると目覚まし時計が鳴った。 ピピピピピ。 もう条件反射で手を伸ばす。パブロフの犬だ。 しかし、目覚まし時計に手が届く前に何か固いモノに当たった。 「…?」 ペシペシとそれを触るがこんな硬いものをベッドに置いた覚えがない。不思議に思って目を開けると三日月があった。 いや、三日月じゃなく兜だった。 何故かある日、目が覚めたら鎧を着た男が隣で寝ていた。 「っ!!?;」 俺は仰天して思わず鎧男から身を離した。シングルベッドだったからついでに落ちる。 その音に反応してそいつが目を覚ました。 うっすらと開かれる一つの眸。鷹みたいに鋭い切れ長の目が俺を認める。 ベッドからコケて座り込んでいた俺と上半身を起こしたそいつは数秒言葉が出ず見つめ合う。 「…誰だ、テメェ?」 先に声を出したのは男の方だった。 「そりゃこっちのセリフだ!!」 妙に落ち着き払った態度が俺一人動揺しているみたいでムカついた。 カップにコーヒーを淹れてテーブルに置く。 鎧の男は兜と手袋を取って俺の向かいに座っていた。一瞬小首を傾げたが、普通にカップを手に取って飲む。 「oh.coffeeか」 「インスタントだけどな」 多少珍しそうに、けど納得した様子で自然にカップを口に運ぶ男。兜を脱いで判ったが、キテレツな鎧を抜きにしても人目を引くカオをしていた。 「で、アンタ何?」 「お前こそ、誰だ」 「俺は寺門日向。この部屋の住人だよ」 「ふぅん、俺は伊達政宗だ」 何だか品定めするみたいにじろじろと見られる。その居心地の悪さに俺が身じろくとニヤリと笑った。 「ま、仲良くやろうぜ」 意地の悪い微笑に捕らえられて、俺はぞくりと悪寒が走った。 「――そういや、あん時もこうしてコーヒー飲んでたよな」 「What?」 政宗が俺の呟きに反応して、視線を上げた。 「ほら、俺らが初めて会った時のコト」 「…ああ」 思い出したらしい政宗はあの時と同じ意地の悪い笑みを浮かべた。 「悪魔みてぇ。人相悪いの直せよな」 見慣れはしたが、嫌な感じがするのは変わらない。悪(あく)どすぎる。 「あの時の日向は可笑しかったな」 そう喉を鳴らす政宗。 「さいですか…」 愉しそうなのは結構だが、微妙に黒いモノを感じるぞ。 「なんで俺、こんなヤツ置いてんだろ…?」 「解りきったコトだろ」 「ぅわっ」 気がつくと政宗のカオが間近にあった。急なドアップに驚いて身を引くと、腕を掴まれ座ってたソファーに倒される。 見下ろしてくる眸が獲物を見る獣のそれだった。 あの時、俺に悪寒が走ったのはコレのせいだ。 「解ってんだろ、日向?」 「何がだよ;」 「正直になれよ」 コイツが何を言っているのかさっぱりだが、悪い予感だけは増す。この眸に一度捕まると逃げられない。 「本気で解んねぇなら、解らせてやろうか…」 だんだん笑みが深くなってイイ表情になっていく政宗に反比例して俺は青ざめていく。 よく判らんがこういう時の政宗は敵いそうにないから怖い。 覆い被され近付けられるカオ… 「…ちょっと待て」 吐息の感じる距離まで政宗との距離が縮んだ時、はた、とあるコトに気が付いた。 「何だよ…?」 政宗は寸止まって不機嫌に聞き返した。 「お前がやって来た状況は、もしかしたら幸村たちも同じように来た可能性がないか?」 「AH?そうかもな」 だからどうした、と政宗は首を傾げた。俺は血の気が引いて頭を抱える。 「どうしたじゃねぇだろ!俺でさえビビったってぇのに、妹たちは目が覚めたら知らない男がいたコトになるんだぞ!?;そんな酷いコトがあるか!!?」 あ゛あ゛あ゛〜っっ!!!、と今更のコトに悶絶する俺。 でも、仕方ないじゃないか。俺だってコイツで手一杯で、気にかけてやる余裕がなかったんだから。 何だか知らないが、俺の上に被さっている政宗は苦悶にのたうち回る俺を見下ろして額に青筋を浮かべていた。 |