天使の羽跡 9 「ごめん!」 僕は勢いよく頭を下げた。 「雪の問題なのに強引に話を進めてしまって…本当にごめん。」 自分の靴の先を見つめること、数秒。 何の反応もない雪に不安になり、恐る恐る顔を上げると、きょとんとした雪がそこにいた。 「なんで謝るの?…私、彼の家まで行ってみるって決めた。」 「え…。」 相当の阿呆面をしていたのだろう。 さっきはあんなに乗り気だったくせに、と雪は僕を笑った。 「でも、雪…。」 僕は内心、少し焦っていた。 無理に合わせているのではないか。彼に会うことで、傷つきはしないだろうか。僕が余計な事を提案したばかりに、雪が悲しむ結果になったら…。 悶々と悩んでいるうちに雪の表情は、お得意のクスクス笑いから柔らかい微笑みにかわっていた。 「聡のおかげで、決心できたんだよ。今までだって、行こうと思えば行けたのに。そうしなかったのは、勇気がなかったから。聡が、私に勇気をくれたの。」 ああ、そうだよな。雪はずっと、彼に会いたかったんだ。僕はただのきっかけに過ぎない。ずっと、好きだったのだから。 心の中で自分を自嘲する僕に向かって、でも、と雪は続ける。 「やっぱり少し怖いから、一緒に行って欲しいな…なんて。」 狙わずしての上目づかいが、僕を攻め立てる。 可愛い、と思ってしまった。報われない想いなのに。これから、ずっと想い続けた男に会いに行くというのに。 今年は恋愛しないと思っていたはずが、僕はあまりにも単純だった。 雪が喜ぶ結果になったとしても、僕はきっと心から祝福することはできない。 [*前へ][次へ#] [戻る] |