天使の羽跡 2 「あっちぃ〜!」 さっきから何度も同じ台詞を繰り返し、下敷きを高速で操っている男は、今年できた僕の友人。 僕の迷惑を考えていないのか、ただ構って欲しいのか、僕の机の上に堂々と腰掛けている。 「大川は涼しそうだなあ。」 「僕の周りと白石の周りで、温度に差があると思うかい?」 「思う!」 「…だとしたら、君の発している熱が原因だね。」 高校三年、七月。 進学を考えている僕は、勉強に精を出している。 「おまえよぉ、休み時間まで勉強すんなや。」 「白石は、授業中くらい勉強するべきだと思うが。」 白石は、確かにな、と言って可笑しそうに笑った。 「そんなに笑えるかい?」 「いや。俺達って、真逆だから成り立ってるのかと思ってさ。」 成り立つも何も、卒業するまであと一年もない。僕は進学、白石は就職だから、春にはお別れだろう。 「今日も残って勉強かあ?」 「うん。君は、今日もいつものメンバーと遊びに行くんだろう?」 九割五分決め付けながらそう問うと、白石はチッチッチと人差し指を振って見せた。 「今日はなあ、遊びは遊びでも、女の子との約束なんだ。やっぱ夏は恋の季節だもんな。よし!俺、頑張るよ!じゃあな!大川も頑張れよ!!」 僕は何も言っていないのに白石は一人で話を続け、勝手に終わらせて、満面の笑みで手を振りながら去って行った。 「恋の季節…か。」 誰もいなくなった教室で、僕はぽつりと呟いた。 僕にとって、今年はずっと勉強の季節だ。恋ってやつは、進学してから探そう。 僕はいつものように、問題集を広げた。 ほとんどの生徒が帰ってしまった学校で、聞こえてくるのは時計の音と野球部の声。それから… 「ひとり?」 「うわっ!!?」 僕は驚きのあまり、ガタンッという音とともに立ち上がり、勢いよく後ろを振り返った。 そこにいたのは、ストレートで艶のある黒髪を腰まで伸ばした、色白の綺麗な少女だった。 同じ学年だろうか。でも僕はこんなに可愛い女の子を見たことがない。 学年を色でわけている胸元のリボンも、少女はしていなかった。 [*前へ][次へ#] [戻る] |