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天使の羽跡
13
「雪!!」

 ガシャンッと豪快な音を立てて、彼女と僕を隔てる金網を掴んだ。
 雪は僕を見つけて、にこりと微笑む。
 いつもと変わらぬその笑みに、どこからか生まれた焦りが薄くなっていく。

「今そっちに行くから待ってて。」

 雪が頷いたのを確認して、プールへと続くドアに向かった。
 金属のドアノブを掴んで回そうとするが、ガチッと音がして、それ以上は回らない。体育の授業も水泳部の活動もない時間だから、鍵がかかっていて当然だ。
 雪を呼んで開けてもらうのも格好悪い気がして、隣の金網をよじ登った。頂上の尖っている部分に刺さらないよう、慎重に。
 雪もこうして同じように中に入ったのかと思うと、何だか嬉しくなった。
 山の斜面を軽快に駆け登ったように、見かけによらず活発なようだ。

「雪。」

 小走りで雪に近づき、疑問をぶつける。

「どうしたんだい?こんなところで。」
「今日はね、聡にお別れを言いに来たの。」
「……え?」

 ドクン、と全身の血液が反応する。

「な、何で…」

 手も足も口も、細かく震えて止まらない。

「聡には本当に感謝してるよ。ありがとうって、何回言っても足りないくらい…。」
「そんな最後みたいな言い方…。」
「最後…だから。」
「最後って…お別れってどういう意味だよ!どこか遠くへ引っ越すのかい!?それなら僕が会いに行く!遠くにいたって、会おうと思えばいつでも会えるだろう!?」

 僕はらしくもなく興奮して、雪に詰め寄る。
 雪は悲しげに微笑んだ。空を見上げて、地面を見下ろし、僕を見据える。

「ねぇ聡、ちょっとだけ昔の話してもいい?」

 賛成も反対もしないうちに、雪がプールの飛び込み台に座ったので、僕も隣コースのそれに腰を下ろした。

「私、家出したって言ったでしょ?学校から帰ってすぐ両親と大喧嘩して、制服のまま飛び出して向かった先は、彼の家だった。ずっと彼の家に泊めてもらってたの。二人の生活は本当に幸せで、この愛は永遠だって信じて疑わなかった。学校は好きだから、通い続けたよ。うちの両親変に意地っ張りで、私の友達にも高校にも連絡してないみたいだったから。でもね、ある日学校に行こうとして、途中で制服のリボンを忘れたことに気付いてね、彼の家に取りに戻ったら、知らない女の人と抱き合ってるとこだった。頭真っ白になっちゃって、そのまま飛び出して…。」

 思い出すように話し続けていた声が、急に途切れた。
 泣いているのかと隣を見たが、複雑そうな顔で空を仰いでいるだけだった。

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