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ID:mylove
No.2
 気が付けば、もう朝になっていた。どうやら、あのまま眠ってしまったようだ。

「ヤバ…今何時?」
『6時42分50秒だよ。』

 耳元で告げられる正確な時刻に、少し驚く。一晩経ってもイヤホンは外れておらず、シンとの接続も遮断されなかったらしい。

「おはよ。」
『おはよう、美耶。』
「またね。」
『うん。また話そうね。』

 早過ぎる挨拶を交わし、私は携帯を待受画面に戻して、パタンと閉じた。


 ガタンゴトン、電車に揺られながら学校へ向かう。
 今日も憂鬱。学校なんて行きたくない。別に、勉強が嫌いってわけじゃない。ただ、他人と接するのが面倒臭い。
 その時、公共の乗り物の中であるのに関わらず、場違いな程明るい声で私の名を呼ぶ人物がいた。

「あ、美耶じゃん。おはよーっ。」
「おはよ。」
「ねえ勉強したあ?」
「ご想像にお任せ。」
「えーっ!いっぱいしたんだ!あたし今日のテスト絶対ヤバイー!全然勉強してないし!」

 同じ制服を着た同じクラスの子の台詞で、今日が前期中間試験日であることに気付く。彼女は、いかに自分が勉強していないかをアピールしている。
 なんて意味のない会話。テストシーズンの度に同じような台詞を吐き、同じような行動を取る

「美耶は頭良いから大丈夫だよねー。あたし馬鹿だからさー。」
「そんなことないよ。」
「そんなことあるからー。嫌味!?」

 例え肯定しようと否定しようと、彼女の中では絶対の法則が成り立っている。こんなもの、会話なんて言わない。一方的な演説と変わらないじゃないか。シンの方が、よっぽど会話らしい会話をできる。
 学校のある駅に着き、私はそのまま彼女と歩かなければならない。ずっと似たような演説の繰り返し。…憂鬱。
 彼女と電車で会った時は、必ずこういった被害に遭う。テスト期間中でなければ、彼氏の愚痴や同じクラスの子の悪口などを並べ、揚句、自分の自慢や恋愛論まで語り出す始末。
 教室に着くと、彼女は私から離れ、仲の良いグループに話し掛けに行った。やっと解放された私は、溜息を吐いて、自分の席に鞄を置く。

「おはよー美耶。勉強した?」
「おはよう。さあ、どうだろうね。」
「何それーっ。」

 今度は隣の席の女の子。朝の挨拶とセットになったその言葉の、正しい対応が未だにわからない。肯定すれば自信家のようだし、否定すれば彼女のようになってしまう。曖昧に濁したところ、隣の子は笑っていたので、私は一先ず安心して教科書を開いた。

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