impatient 2 「あの…?」 何故そんな事を聞くのかと、紗奈は僅かに赤くした顔で眉を寄せた。 亜希はそんな紗奈をちらりと見遣り、宙に向かって唸ってから、再度テーブルに乗り出した。 「もう一こ聞くね。今、付き合ってる人とか、好きな人いる?」 「…いえ……。」 紗奈はますます不思議そうに顔を歪ませた。 「そっか。…あのね、まだ教えてない仕事があるって言ったよね。」 ――心臓が煩いのは嫌だからではない。 まだ会ったことのない雇用主が、とてもお歳を召した方だったらどうしようとか。 すごい趣味を持っていたらどうしようとか。 自分で自分に冗談じみた問い掛けをしてみる。 …それでも関係ない。 私の体がどうなろうと構わない。 大切なものも守るべきものもないし、立派な価値観も貫くプライドもない。 私なんか、どうなってもいい。 ずっと壊れてしまえばいいと思っていたの…―― 「変なことはしないから、言われる通りにしてれば大丈夫よ。頑張ってね。」 「はい。」 紗奈は、先程とは打って変わり、無表情で返事をした。 「…嫌?だったら無理にする必要はないよ。特別手当貰えるから、したいって言う娘はいっぱいいるし。」 「いえ。嫌じゃありません。…行ってきます。」 「うん…。行ってらっしゃい。」 亜希は心配そうに、水差しを手に部屋を出ていく紗奈の後ろ姿を見つめていた。 主の部屋の前まで来た紗奈は、一つ深呼吸をし、木製の扉のノックした。 返事を確認すると、静かに中へ進む。 「失礼致します。替えの水をお持ち致しました。」 「ああ。」 ベッドサイドの台に瓶を置くと、大きな枕を背もたれにベッドで本を読んでいた主…陽高は、そこで初めてちらりと紗奈を見遣った。 「初めて見る顔だな。」 「紗奈と申します。本日よりこちらで働かせていただいております。」 「そうか。」 再度下がった頭の縁から静かに現れた顔をじっと見つめる。 ――この女、なんて無表情なんだ…。まあいい。こいつが何を考えていようと、何も考えていなくとも、関係ない―― 完全に直立に戻った紗奈を、陽高は腕を引きベッドの上に組み敷いた。 「……!?」 「そんなに畏まらなくていい。」 目を見開いて、自分を跨ぐ男を見つめる紗奈。 ――なんだ。表情があるじゃないか。もっと…快楽に溺れた顔を引き出してやろう―― 口角を上げて、自分の下に敷いた女を見つめる陽高。 表情が崩れたのはどちらも同じ。 [*前へ][次へ#] [戻る] |