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impatient
バレンタインデー〜亜希と如月の場合〜


2月14日…いわゆるバレンタインデーから、もう1週間が過ぎた。

あの日のことを、俺はまだ引きずっている。


ワクワクしながら何食わぬ顔で待っていた当日。

期待最高潮の夜。

ショックを隠しきれない翌朝。


…あれ?俺達付き合ってる…んだよね!?亜希さん!


そんな不安も口に出せないまま、愛する人からのチョコレートは諦めた。

亜希さんは世の中のイベント事が大好きだから、バレンタインを忘れるはずも、何もしなくていいと思うはずもない…と、思う。


まだまだ付き合って日が浅いから、実の所はよくわからない。



「如月くん…。」

「亜希さん。」


俯き気味の亜希さんが厨房にやってきた。

何となく気まずくて最近まともに話していなかったし、新作のデザートも食べてもらってない。

亜希さんはキョロキョロと厨房を見回し誰もいないことを確認すると近くまで入ってきた。


「どうしたの。」

「あのね、すごく言いづらいんだけど、聞いて欲しいことがあって…。」


ちょっと待って。

それはもしかしなくても、俺が一番聞きたくないことじゃないか?


亜希さんは表情を曇らせたまま、口をまごまごとさせた後、勢いよく頭を下げた。


「ごめん!」




ああ、もう終わりなのか。

いや、いいんだ。

亜希さんが俺のものだった日々は、すごく幸せだった。




「あのね、どうしても上手くいかなくて。如月くんはパティシエだから、中途半端なものじゃ恥ずかしくて、有名店の買おうと思ったんだけど、他人が作ったものじゃ嫌がるかもって思ったらやっぱり作らなきゃダメだって。レシピ通りじゃ他の人が作ったのと同じになっちゃうから、オリジナルで作ったの。でも私、どうしても上手くできなくて間に合わなくて…ごめんなさい。」

「………は。え?…チョコのこと?」

「うん…。ごめんね。」

「はっ…ははっ」


急速な安堵から笑いが込み上げてくる。

亜希さんは、笑わないでよと顔を赤くしながら、おずおずとマグカップとティースプーンを取り出した。

中にはチョコレート色の液体。

ありがとう、と言って受け取ろうとすると、亜希さんはサッとマグカップを避けさせた。


「遅くなっちゃったし、美味しくないかもだから…。」

「うん、いいよ。亜希さんが俺のために作ってくれたものなら何でも嬉しい。」

「…だからね、」


一匙、スプーンですくった亜希さんはそれをちろりと舐めた。





――私ごと食べて…――





俺の理性はそこで機能を失った。






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