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impatient
15
「何か良い事がございましたか?」

「何故だ?」

「いえ。今日の専務はいつになくご機嫌がよろしいように思えたもので。」

「…そうか。」


まだ朝だというのに、陽高は帰ってからのことを考えていた。

今夜は紗奈をどうしてやろうかと、屋敷を出てから会社に着くまでそればかり。

神崎に指摘されるまで、想像に頬が緩んでいたことに全く気付いていなかった。


「いい体を見つけてな。」

「と、おっしゃいますと?」

「あれを、相性が良いと言うのかな。何度抱いても飽きない。その体に触れるだけで満たされる。」

「……それは…。」


恋では、と言おうとした神崎だが、まさかと考え直し、しかも出過ぎた事は言えず、それ以上は口をつぐんだ。


「何か言ったか?」

「専務が一人の女性に執着されるのは珍しいと。」

「ああ、そうだな…。だが、しばらくは手放せそうにない。」


遠くを見つめる陽高を、神崎は横目に見ていた。

この会社で働くようになってから今まで、陽高が女性をどう扱ってきたか、神崎は知っている。

関係を持った女性の面倒な後始末は、神崎の仕事だったからだ。

だらし無いという程ではなかったが、いずれトップに立つ人間にしては無責任だった。

そこで神崎は、金銭で割り切った関係のみにして欲しいと頼み、陽高は屋敷のメイドしか抱かなくなった。


――本当に珍しいことだ。お屋敷のメイドだろうか。とにかく、専務が本気かどうかわからない今、相手の女性が面倒な勘違いを起こす前に対処しなければ…――


神崎はそう思い、新たに仕事が増えたことで少し体が重くなった。




夕方、陽高は凝った首を捻りながら立ち上がった。

疲れているはずなのに、その顔はどこか生き生きとしている。


「お疲れ様でした。今日は随分早く片付けられましたね。」

「張り切り過ぎたか。帰ってから楽しみがあるというのはいいものだな。」

「…そうですね。」


早々と立ち去る陽高の背に、神崎は笑いきれない笑顔を浮かべながら、もう一度お疲れ様でしたと頭を下げた。

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あきゅろす。
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