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impatient
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陽高の言い付け通り少し、昼前まで体を休めていた紗奈は、そろそろ起きなければと陽高の部屋を出た。

住み込みの使用人に与えられている別棟の小さな個人部屋に戻る道。中庭に面した渡り廊下を進もうとした時、後ろから声を掛けられた。


「ちょっとあんた。」

「…はい……?」

「こっち来な。」


由実乃は紗奈の横を通り過ぎ、別棟へ進む。

紗奈は大人しく、由実乃の後ろを速歩きで着いて行ったが、廊下を渡りきってから居住場所と反対に曲がる由実乃に不信感を抱いた。

ここへ来たばかりの紗奈だが、確かそちらは倉庫しかないと説明されたはずだ、と。

紗奈が足を止めると、直ぐにそれに気付いた由実乃は振り返って眉を寄せた。


「何ぐずぐずしてんだい。こんな遅くに起きてきて、まだ仕事しないつもりかい?」

「あ…っ、すみません。」


――てっきり、陽高様について何か言われるのかと思った。由実乃さん大人だし、そんな事するはずないのに。さすがに早く仕事始めないと申し訳ない。変に疑って悪かったな…――


昼間だというのに少し薄暗い倉庫は、不気味な雰囲気を醸し出していた。


「由実乃さん、何をすれば」

「あんた、陽高様に惚れたわけ?」

「………え?」


由実乃は紗奈を中に入れると、扉の鍵を内から掛けた。


「初日から二日連続でセックスして、その気になったんだろ?あわよくば今日も、なんて思ってんじゃないのかい?」

「そんなことは決して…!」


ここまで、由実乃は冷静を保てていた。

しかし紗奈の喉元に赤い痕を見付けた瞬間、目の色が変わった。

どのメイドの体にも見たことのないキスマーク。


「それも仕事だと教わったので、行かないわけには…。」

「ごちゃごちゃ五月蝿いね!調子に乗ってんじゃないよ!」

「……っ!!」


――痛い――


平手で打たれた頬が、ジンジンと熱を持ちはじめる。

反動で横を向かされた紗奈は、頬を押さえて由実乃を振り返った。

その瞳には、驚愕と恐怖が滲み出ている。


「もう二度と陽高様の前に出られないようにしてやるよ。」

「やっ…!」

「抵抗していいと思ってんのかい?あんたをクビにすることくらい造作もないんだよ。まあ、こんなことされるくらいなら、出て行った方がマシだと思うけどねえ。」


由実乃は紗奈の髪を掴んで床に投げつけると、派手に倒れた紗奈に選択肢を与えるように、攻撃を休めて腕組みをした。


――痛い。怖い。悔しい。……けど、陽高様…ここを辞めたらもう会えるはずのない人…――













「そんな気持ち悪い体じゃあ、もう使い物にならないね。」

「……。」


由実乃はケラケラと笑いながら、最後に紗奈の背中を一蹴りして倉庫から出た。

紗奈は痛む体を投げ出したまま、床の木目の埃を見つめていた。

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あきゅろす。
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