impatient
割れて繋がるもの
世間ではメイドに"萌え"という感情が発生するらしい。
何をやっても失敗ばかりするドジだったり、はたまた冷静沈着で有能だが愛想が悪かったりするそうだ。
萌えというものはよくわからないが、無能よりは有能の方がましだろう。
――ガシャン
陶器が割れた音。
夕食の準備をしている食堂を覗くと、少し前に入ったメイド、紗奈が顔を青くして、足元に散らばった白の残骸を見つめていた。
音の元に、その場の責任者であろうメイドが駆け付け、短い説教の後、片付けるように言ってその場を去った。
紗奈はそこにしゃがみ、大きな破片を手で拾っていく。
俺が近付くと、紗奈は潤んだ目を見開いて俺の名を呼ぶと、小さく叫んだ。
驚いて、指の先を少し切ったようだ。
「ごめんなさい!お皿…」
「怪我は?」
「いえ、それほど痛くありません。…あの…?」
俺は紗奈の手から白い破片を奪った。
「危ないから下がっていろ。」
「え?え?」
「陽高様!私共がやりますから!」
先程去ったと思われたメイドが掃除機を持ち帰って来て、焦った表情で止めようとする。
俺はそいつが持っていた小さなごみ袋に皿の破片を入れ、紗奈の手首を掴み上げた。
「血が出ている。洗って消毒しておけ。ああ、それと…」
先程紗奈に説教していたメイドの方に振り向くと、そのメイドは背筋を伸ばして直立した。
「こいつを叱るなよ。俺が勝手にやったことだ。」
「…はい。お手を煩わせて申し訳ありませんでした。」
メイドは何か言いたげだったが、反論するはずもなく頭を下げた。
「あ、あの…陽高様…。」
廊下に出て、今日はもう用事が全て済んでしまったため夕食まで何をしようかと考えていると、後方から声を掛けられた。
「先程は、どうもありがとうございました。…あの、今日はもう仕事はいいと言われてしまったんですが…。」
萌えという感情はよくわからないが、そう言って顔を赤らめ上目遣いで俺を見つめる紗奈は、可愛いと思った。
「指の処置をしたらすぐに来い。風呂は沸かしておくから、そのままでいい。」
切った指が痛むだろうから、今日は特別に洗ってやるか。
身もだえる紗奈を想像して、一人ほくそ笑んだ。
---Fin
2010/02/04
[*前へ][次へ#]
[戻る]
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!