impatient
13
――陽高様、最初は少し恐かったけれど、本当は優しい方だとすぐにわかった。行為の最中や終わった後も私の体を気遣ってくれるし、今だって私が気を遣わないように冗談まで言ってくれたし――
「紗奈は体中どこでも感じるな。」
意地悪で恥ずかしいことも言ってくれるけど、と紗奈は心の中で付け足した。
陽高の指先は、紗奈の腰から脇、首から臍を、優しく撫でていく。
「んっ…」
「声を堪える必要などないと言っただろう?」
「…ゃ………あっ!」
体のラインを辿っていた陽高の指先が、ふと胸の先端を掠り、紗奈は思わず声を上げてしまった。
恥ずかしさから、口元に手を当てて陽高の表情を窺うと、陽高は目を細めて微笑んでいた。
紗奈の心の奥が、とくん、と小さな音を立てた。
――例え同情だとしても、立場もわきまえず好きになってしまいそう。だって陽高様といるだけで、胸の奥がとてもあたたかい――
心地好い温もりや匂いから離れたくはなかったが、紗奈は時計を視界に入れると、そっと胸板に手を添えて顔を上げた。
「陽高様…、そろそろお時間じゃ…」
「ああ、そうだな。」
陽高はベッドから離れ、シャツを着てネクタイを締める。
「あの、私はこういう時、お手伝いするべきでしょうか?」
「着替えをか?…どちらでも構わないが、いつも一人で着替えているから気にしなくていい。」
身なりを整え、全身が映る鏡で軽くチェックしながら紗奈を振り返った。
「わかりました。いってらっしゃいませ。」
「行ってくる。」
そう言い部屋を出ようとした陽高を、名残惜しげに見つめてしまった紗奈。
「ん……っ!」
突然の事だったが、口内に侵入してきたものに紗奈は一生懸命応えた。
何も考えずにキスしたことに陽高が気づいたのは、紗奈を芯から蕩かす程の、情熱的な舌の愛撫を終えた後だった。
我を取り戻した陽高は、いつの間にか支える形になっていた紗奈の頭と腰から手を離し、紗奈を横たわらせて布団を掛けた。
――調子が狂う。何故あのような行動に移ったのか自分でもわからない。俺はどこかおかしくなったのだろうか。いや、狂ったというより、むしろ歯車が噛み合ったような――
「少し休んでいろ。」
「でも…」
「続きは夜にする。眠らせる保障はないぞ。」
狼狽る紗奈の喉元に強く吸いつき、赤い花びらを散らせた。
「それで忘れないだろう。」
「…は、はい。」
――また今夜も陽高様と…。恋人でもない男性に自分の体を売れば、汚れきれると思った。だけど、陽高様にのみ体を許すのなら、私自身を汚してどうにもならないところまで落とすのではなく、清らかな心に戻れる気がする。……この仕事に救済の光を見つけられた、かな――
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