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impatient


翌朝。広い部屋のベッドで一人眠っていた紗奈は、どこからか聞こえる話し声で目が覚めた。


「相変わらず仕事が早いな。ご苦労。」


扉が閉まる音と、誰かが近づく気配。

紗奈がもぞりと寝返りを打つふりをしながら薄目を開けると、思いの外その人物は近くにいた。


「おはよう、紗奈。」

「お…はようございます…。」

「まだ疲れているだろう。俺は仕事に行くが、好きなだけここで寝ていていい。メイド長にも話を付けてある。」

「えっ。」

「見送りもここでいい。」


陽高は、体を起こそうとした紗奈を片手で制し、軽いキスをすると一刹那だけ見つめ合い、すぐに背を向けた。


「行ってくる。」

「行ってらっしゃいませ。」


――何なんだ、これは。胸の上が縮むような感覚は。ひどく甘ったるく全身にまとわりつく空気。ずっと浸かっていたいと思ってしまう。こんな感情を俺は知らない。心を掻き乱されるような、落ち着けられるような、こんな想いを――


廊下に出た陽高は、使用人達と朝の挨拶を交わしながら、答えの出ない問いに頭を悩ませていた。



会社に着きエントランスを通ると、一人の男がファイルを手に立っており、恭しくお辞儀をして、陽高の一歩後ろを歩き始めた。


「お早うございます。本日のご予定ですが…」


まだ若いが優秀な、次期社長の秘書である神崎(カンザキ)だ。

何かを話し続けているが、陽高は適当な相槌と共に聞き流し、別の事を考えていた。


――昨晩のあれは、俺もまだ若い証拠だろうか。果てた紗奈相手に更に二度も望むとは。しかし、あれ程気持ちの良い体があるとは知らなかった。体の奥底まで満たされた、初めての感覚…――


「専務、いかがされました?」

ぼうっとしたままエレベーターに乗り込んだ陽高を、神崎は怪訝な顔をして窺った。


「いや…続けてくれ。」

「はい。では、こちらの書類を。」


神崎によって現実に連れ戻された陽高は、ようやく頭を仕事モードに切り替えたのだった。



その頃、紗奈は遅い朝食を食べていた。

休憩室でスクランブルエッグを突く紗奈の目の前には、興味津々顔の亜希。


「よかったでしょ。」

「何がですか?」

「陽高様。」


その一言で、紗奈の目は大きく見開かれ、耳まで真っ赤に染まった。

亜希は、やっぱりよかったんだ、と笑った。

紗奈はなるべく平常心を装おうと、パンを千切り口に運ぶ。

そんな紗奈にとどめの一撃。


「好きになっちゃった?」

「…っ!?」

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