impatient
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「あの…?」
何故そんな事を聞くのかと、紗奈は僅かに赤くした顔で眉を寄せた。
亜希はそんな紗奈をちらりと見遣り、宙に向かって唸ってから、再度テーブルに乗り出した。
「もう一こ聞くね。今、付き合ってる人とか、好きな人いる?」
「…いえ……。」
紗奈はますます不思議そうに顔を歪ませた。
「そっか。…あのね、まだ教えてない仕事があるって言ったよね。」
――心臓が煩いのは嫌だからではない。
まだ会ったことのない雇用主が、とてもお歳を召した方だったらどうしようとか。
すごい趣味を持っていたらどうしようとか。
自分で自分に冗談じみた問い掛けをしてみる。
…それでも関係ない。
私の体がどうなろうと構わない。
大切なものも守るべきものもないし、立派な価値観も貫くプライドもない。
私なんか、どうなってもいい。
ずっと壊れてしまえばいいと思っていたの…――
「変なことはしないから、言われる通りにしてれば大丈夫よ。頑張ってね。」
「はい。」
紗奈は、先程とは打って変わり、無表情で返事をした。
「…嫌?だったら無理にする必要はないよ。特別手当貰えるから、したいって言う娘はいっぱいいるし。」
「いえ。嫌じゃありません。…行ってきます。」
「うん…。行ってらっしゃい。」
亜希は心配そうに、水差しを手に部屋を出ていく紗奈の後ろ姿を見つめていた。
主の部屋の前まで来た紗奈は、一つ深呼吸をし、木製の扉のノックした。
返事を確認すると、静かに中へ進む。
「失礼致します。替えの水をお持ち致しました。」
「ああ。」
ベッドサイドの台に瓶を置くと、大きな枕を背もたれにベッドで本を読んでいた主…陽高は、そこで初めてちらりと紗奈を見遣った。
「初めて見る顔だな。」
「紗奈と申します。本日よりこちらで働かせていただいております。」
「そうか。」
再度下がった頭の縁から静かに現れた顔をじっと見つめる。
――この女、なんて無表情なんだ…。まあいい。こいつが何を考えていようと、何も考えていなくとも、関係ない――
完全に直立に戻った紗奈を、陽高は腕を引きベッドの上に組み敷いた。
「……!?」
「そんなに畏まらなくていい。」
目を見開いて、自分を跨ぐ男を見つめる紗奈。
――なんだ。表情があるじゃないか。もっと…快楽に溺れた顔を引き出してやろう――
口角を上げて、自分の下に敷いた女を見つめる陽高。
表情が崩れたのはどちらも同じ。
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