impatient
5
「な、何で…」
「好きだから、してるの?」
知ってた…んだ……。
「仕事、だから。」
好きだった、けど如月君相手には何故かそれを言えなくて。
俯いて答えれば、如月君は私に一歩近付いて言った。
「仕事だから?亜希さんはお金で体を売るの?」
「……っ!」
違う、と断言したいのに、自分が言ってしまった事だから否定出来ない。
「じゃあ俺もお金払ったら亜希さんを抱いていいの?」
「な…っ」
ビックリして、バッと顔を上げると視界が陰って、それが如月君によるものだと気付いた時には、もう唇同士が離れた後だった。
呆然としていると、後ろにあったテーブルに押し倒された。
「き…さらぎくん…?」
「あ、そうだ。今まで勝手に食べてたデザート代、体で払って貰おうかな。」
「や…嫌!やめてよ、こんなの…っ」
「嫌?何で?じゃあデザート代帳消しにして、更にお金も払うよ。それならいいんでしょ?」
聞きながらも、私の許可なんか初めから求めていないというように、足を伝ってスカートの中に手が忍び込んでくる。
「ゃ、あっ!」
「亜希さん、どこが感じるの?ここ?」
「っ……やめて!!!」
如月君の手が下着に触れて、いよいよ危ない状況が押し迫った時、私は叫んで彼の体を強く離した。
「やっぱり…。」
「え…?」
「ごめん亜希さん、手荒なことして。俺、なるべく早くここ辞めさせて貰えるよう掛け合うから、安心して。」
そう言った如月君は悲しげな笑みを浮かべていて、私はさっきまでの恐怖も忘れて慌てて引き止めた。
「わ、私、大丈夫だから、気にしてないから…。誰にでも気の迷いってあるし…」
バンッ、とテーブルが激しい音を立て、私は肩をビクつかせた。
如月君は拳を作っていた手を、ゆっくりと開いた。
「…亜希さんは結局、陽高様だけが好きなんだよね。嘘つかないで本当のこと言ってくれればよかったのに。俺に変な期待させないで、俺に嫉妬させなければ、嫌な思いしないで済んだのに。」
期待…?嫉妬…?
「抱きしめていい?最後だから。心配しなくても、もう変なことしないよ。」
「心配なんて…。」
如月君は少しだけ微笑んで、私の背中に腕を回した。
「俺の想いを、気の迷いなんて言わないで。…大好きだよ、亜希さん。」
暫く呆然と立ち尽くしていた。
我に帰ったのは、メイド長が休憩に来た時。
「貴女いつから休憩してるの。……亜希?亜希?」
目の前をひらひらしていた手が私の肩を掴んで揺らし、私の目線は心配そうな顔をしたメイド長を捉えた。
私…そうだ。如月君に…。
「具合、悪いの?」
「いえ、大丈夫です。」
「そんなこと言っても、顔赤いわよ。熱あるんじゃない?今日はもういいから、部屋に帰って寝てなさいな。」
「はい…。」
休憩室を出た私は、去り際にキスされた頬を押さえた。
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