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impatient

紗奈ちゃんと陽高様のことで、驚愕したのは夕方になってから。

休みのはずなのに使用人の休憩室に現れた紗奈ちゃんを見て、飲み物でも取りに来たのかなと、脳天気に口を開いた。


「どうしたの〜?陽高様に何か頼まれた?」

「いえ。私、今日で辞めるのでご挨拶に。」

「え…!?どうして?」


突然の辞職に、私は素直に驚いた。

まさか、陽高様と付き合うことになったからメイドは辞めるってこと…?

そんなことを考えていた私は、次に紗奈ちゃんが言った事に、さらに驚かされた。


「陽高様から、出ていくように言われたので。」


嘘。信じられない。

紗奈ちゃんを凄く気に入ってる陽高様が、紗奈ちゃんを解雇したっていうの?

笑えきれてない紗奈ちゃんの表情を見る限り、本当らしい。

けど、納得いかない。


「紗奈ちゃん。陽高様…本当に辞めろって…?」

「はい。そのように言われました。」


私は第三者で全然関係ないけれど、やっぱり納得がいかない。

メイド長に挨拶すると言って出て行った紗奈ちゃんを見送り、私は陽高様の部屋へ向かった。


「失礼します。」

「亜希…。どうした。」

「お聞きしたいことがあって。」


ここまで勢いで来たものの、言いにくい。

何て聞こうか迷っていると、陽高様は分かったらしく、自ら口を開いた。


「紗奈のことか。」

「はい…。陽高様に辞めるように言われたって…。」

「ああ。言った。」


やっぱり本当だった。

疑っていたわけではないけれど…信じたくなかったのに。

理由を問うと、普段顔色を変えない陽高様が、微かに切ない表情を見せた。


「紗奈が、俺から離れる事を望んだから。」

「紗奈ちゃんが…?だって私に言いに来た時すごく悲しそうで…。それに陽高様だって」

「亜希。」


陽高様だって、悲しそうなのに。

それを言わせないように話を遮られた。


「紗奈のポスト、ずっと狙っていたんじゃないのか?紗奈がここに来るまでは、全部亜希の仕事だったからな。情でも移ったか?」


そう。ずっと取り戻したかった仕事。

私が、陽高様の夜の相手をしたかった。

じゃあ今がチャンスってこと?

紗奈ちゃんがいなくなって、万々歳?


「ほら。“仕事”しなくていいのか?」


陽高様は、座っていたソファーに浅く腰掛け直した。

その行動の意味は知っている。

以前の習慣か、体が勝手に動いてしまう。


「失礼します…。」


呟いて、陽高様の足元に跪いた。

久々の感触を口内に銜え込み上下に動かしながら、私はどこか上の空だった。

陽高様のこと好きなんだから喜ばしいはずなのに、なんだろう、この虚無感。

あの頃はよかったのに…何かに対しての罪悪感?

それでも徐々に大きくなる陽高様自身に懸命に奉仕し続けていると、出入口付近から物音が聞こえた。

目線だけを動かすと、そこには。

…紗奈ちゃん!?

一瞬で頭の中が真っ白になった。

紗奈ちゃんは、すみませんでしたと言って部屋を飛び出して行ってしまう。

私は嫌な汗を感じながらも、どうしていいかわからず、そのままでいた。

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