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impatient


上機嫌で休憩室に戻って暫くダラけていると、やっと持ち場の掃除を終えたらしい紗奈ちゃんが来た。

うん。私、とことん仕事してないね。

でもあんまり頑張ってると疲れちゃうから、適度にやっとくのが一番だと思うわけ。

だって紗奈ちゃんなんか、昼間陽高様にコーヒー届けに行っただけで悪戯されちゃって、時間内に仕事が終わらなくてこんな時間までやってて、さらにまたこれから陽高様の相手しなきゃいけないんだから、本当に大変。

紗奈ちゃん疲れてるっぽいし可哀相……な反面、ちょっとだけ羨ましい。


「このあとも呼ばれてるんでしょう?代わってあげようか?」

「大丈夫です。私に任された仕事なので。」


それとなく言った台詞に笑顔で返した紗奈ちゃんは、足早に休憩室を出ていった。

普段のやんわりした口調が少しだけ刺々しくなってしまったのは、多分、本当に代わって欲しくなかったんだと思う。


「あー、もう。早くくっついちゃえばいいのに。」


二人の関係は、見てるこっちがじれったいほど。

言葉にする事で、陽高様への想いなんかもうありませんよーと、自分にアピールしたつもりだけど、余計に虚しくなるだけだった。



次の日の午前中、いつものように厨房へ遊びに行こうとしていると。

「亜希!!」

ビクッ。

運悪くメイド長に見つかってしまった。


「貴女、どこへ行くつもりだったの?」

「いえ…別に…。」

「紗奈さんがお休みなんだから、今日くらいきちんと働きなさい。」

「紗奈ちゃん…どうかしたんですか?」


そう尋ねると、メイド長はそれまでの恐ろしい顔を改め、気味の悪い笑い声を出した。

意味あり気な笑顔もやっぱり恐ろしい。


「陽高様とお出かけなんですって。きっと夜まで帰らないわよ。」


それからメイド長は終始ニコニコしていた。

ようやく二人が進展を見せた事が嬉しいんだろう。

私も、じれったかった心のモヤモヤが、少し晴れた気がした。

帰ってきたら紗奈ちゃんをからかおうなんて考えながら、やる気が出た私は仕事をさっさと終わらせていった。


そして正午を過ぎた頃。

私やメイド長の予想に反して、陽高様と紗奈ちゃんは帰って来た。

二人が屋敷を出てから、まだ二時間も経っていない。

玄関ホールの掃除をしていた私は、誰よりも先に驚き、ぽかんと二人を見つめた。

けれど陽高様に連行されるように腕を引かれている紗奈ちゃんと目が合い、やっと我に帰って、帰宅の挨拶の言葉と共に陽高様に頭を下げた。


「亜希さん。」

「え?あ、如月君…。」


ぼーっと二人が行った方向を眺めていた私は、いつの間にか隣に立っていた如月君に気付かなかった。


「どうしたの?珍しい。」

「それはこっちの台詞だよ。今日はブランチの時間になっても来ないから、お腹でも壊したのかと思った。」

「失礼ねぇ。私だってたまにはちゃんと仕事するんですーっ。」

「たまに、ね。」


クスクス笑う如月君と話しているうちに、気になっていた紗奈ちゃん達の事は頭の隅に追いやられていった。

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