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impatient



私は陽高様が好きだった。

けれど今ならわかる。

あれは恋ではなく憧れだったと。








「亜希さん、何してるの?」

「何って、新作の味見しにきてあげたんじゃなぁい。」

「まだ仕事中でしょ。」

「だって仕事中じゃなきゃ、如月君帰っちゃうじゃん。」


買い出しから戻った専属パティシエの如月君は、調理場に居座る私に溜息を一つ落とした。


「わかりましたよ。出来たら内線で呼ぶから。サボってたらまた怒られちゃうよ。」

「やったぁ!ありがとーっ。待ってるね。」


そう手を振って調理場を出ると、廊下の掃除をしていた先輩メイドとばったり会った。

職務怠慢をどうこう言われるのかと思ったら、彼女は手を休めてニヤニヤ近寄ってきた。


「亜希、また如月君の所〜?本当仲いいよね。ねえ、本当は付き合ってるんでしょ?」

「違いますよぉ!私が好きなのは…」


それ以上は口に出来なかった。どうあがこうと叶わない想いだから。

続きがわかったのか、隣に立つ先輩は、声のトーンを落として


「私もだよ。付き合いたいとかそんな恐れ多いこと思ってなかったけど…好きだったな。」

「先輩も…。」

「うん。体だけでもよかったんだけどさ、最近それさえも必要とされないし。やっぱ若い子の方がいいのかな。」


あはは、と乾いた笑いをしてみせる先輩に、私は何も言えず黙っていた。


「…わかってるよ、それだけじゃないって。陽高様と紗奈ちゃんが両想いだって、誰が見てもわかるもん。」

「……。」

「亜希も辛かったね。前まで身の回り担当してたから、近かっただけに。」


…辛い?

なんとなく寂しいような悔しいような気持ちはあったけど、辛かったかな?


「亜希?大丈夫?」

「あ、はい。大丈夫です。」



それから夕方まで、私は仕事をしながらずっと考えていた。

ここで働き始めた時から陽高様が好きで、夜呼ばれる事が嬉しくて、一緒にいる時は常にドキドキしてた。

ああ、私、陽高様に恋してるなって。

でもその割に、失恋が決定しても大して辛くもない。

何で?これが普通?


休憩室でお茶を飲みながら悶々としていた時、思考を遮るように内線が鳴った。


「はい。」

「厨房の如月ですけど…亜希さん?新作のケーキ出来たんだけど、味見してくれる?」

「うん、すぐ行く!」


我ながら単純だと思う。

だけどもう、普段使わない頭を回転させたせいで糖分足りないんだもん。


「可愛いーっ。」

「食べてみてよ。」


苺が乗った手の平サイズのケーキを前にした私に、はい、とフォークを差し出す如月君。


「いただきまぁす。」


口の中に入れた瞬間、ふわふわがとろとろでほわーっとなった。

感じたままを述べると、如月君は声を上げて笑った。


「…何?」

「いえ。ありがたきお言葉だなぁと。」

「何それ。ていうか、これ美味しいねぇ。また食べたいなぁ。」

「よかった。亜希さんが美味しいって言ってくれたら、明日の夜にでも出そうと思ってたんだ。」

「それ、私達も食べられる?」

「食いしん坊亜希さんの御命令なら、全員分用意しますよ。」

「うむ。よきにはからえー。」


楽しい。

如月君といると、なんだか若返る気がする。

パワーもらってるのかな。

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あきゅろす。
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