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impatient






「紗奈。」


ベッドの真ん中にペタンと座ってテレビを見ていた私を、後ろから柔らかい石鹸の香りが包み込んだ。

耳元で囁かれる自分の名前と、耳の縁を甘噛みする唇のせいで、私はピクンと体を跳ねさせる。


その反応を見てクスッと笑った陽高様は、私を腕に閉じ込めたまま、前方にある大きな薄型テレビに目を向けた。



「何を観ていたんだ?」

「新しくドラマが始まったみたいなので…最近何も観てなかったと思って、何となく。」


全部言い終えてから、何故最近テレビドラマを観ていなかったかを考えた。

それは通常の仕事が終わったら陽高様の部屋に来る生活を続けていたので、夜に放送する連続ドラマなど観ている暇がなかったからだ。

陽高様の入浴中などにたまにテレビを点けることはあるが、中途半端にストーリーがわからないドラマよりも、バラエティなどを観ているから。

それを考えると、さっきの言い方は若干愚痴っぽかったかなと、決してそんなつもりではなかったのにと、後悔した。


しかし陽高様は、私を覗くようにして頬にキスすると、ぎゅっと抱きしめなおして、テレビの方を向いた。


「来週からは、一緒に観ようか。」

「え…っ」

「つまらなそうだったか?」

「いえ。結構面白い内容だと思います。」

「なら決まりだな。」



どうしよう。嬉しい。

勿論、そこまでドラマを観たかったからなんて理由じゃない。


ただテレビを観るだけだけど、私にとってそれは大きな意味。


体を重ねるわけでもなく、そのための準備をするわけでもない時間を一緒に過ごすこと。



“仕事”じゃない。


主人と使用人じゃない。


陽高様と私というただの個人。




照れる場面でないことはわかっているけど、回された陽高様の腕を、きゅっと抱きしめた。




今だけ…今夜だけは、恋人のつもりでいても許されますか?





「紗奈。あまりくっついていると、番組が終わるまで我慢できないぞ?」

「………っ!」



恥ずかしさから慌てて手を放しても、陽高様の腕は変わらず私に絡み付いている。


我慢しなくてもいいのに…なんて思いながら、再び陽高様の腕を抱きしめた。








---Fin
2008/07/15


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あきゅろす。
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