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impatient


休憩室から飛び出したところで、不運にもその場にいた陽高様にぶつかってしまった。


「きゃ…ごめんなさい!」

「いい。それより、今日も仕事が終わったら来い。」

「あ…はい…。」


今日も。

さっきまで話していた内容だけに、余計意識してしまう。


「紗奈、どうした?」

「いえ、何でもありません。あの…今日はもう仕事終わったので…」


ただの事実を報告しただけなのに、今から早速しましょうと言っているようで、何となくはっきり言えない。

そんな私の胸中など知らない陽高様は、そうかと呟き、ならすぐに来いと言って、先に自室に帰っていった。


「ふぅ…」

溜息か深呼吸か判断できない息を吐き出し、私は静かに陽高様の部屋を目指して歩き出した。




陽高様の部屋の扉をノックすると、やけに遠くの方から返事が聞こえた。

不思議に思いながら中へ入ると、陽高様は浴室にいて、浴槽に湯を張っているところだった。


「もうすぐ溜まるから、入って来い。」

「はい…。」


使用人のためにお風呂を沸かす主人って…。

これが、特別ということ?

違う。違う。

ただ単に陽高様自身が、シャワーも浴びていない体を抱きたくないだけだ。


「紗奈?」

「あ、はい。」

「どうした?体調が優れないなら、今日は止めておくか。」

「いえ…大丈夫です。」


私を心配してか、こちらに歩み寄って来る陽高様。

頬にそっと手を添えられ、前髪にキスを落とされた。

甘く優しい仕草に顔を上げると、陽高様の視線の先…私の唇に、再度キスが降ってきた。


チュッチュッと軽いキスを繰り返した後、様子を窺うように口内に侵入してくるヌルッとした触感。



「ん………っふ。陽高様…?」

「……。」

「あの…」

「風呂、入りたいか?」

「え?はい…まあ。」

「もう溜まっただろう。行ってこい。」

「はい…」



脱衣所のドアを閉める際、その隙間から、ベランダに出ていく陽高様の姿が目に入った。

何かあったのかな。








「陽高様?」


髪を乾かしてバスローブを羽織り部屋に戻っても、陽高様はいなかった。

ベランダを見ると、案の定そこにいて、柵に腕を引っ掛けている。


声を掛けると、眼球だけを動かして、私を視界に捕えた。


「俺のはやはり大きいな。紗奈専用を作らせるか。」


陽高様は私の全身を眺めて言った。

確かに男性用のバスローブは少し大きめで、胸がはだけてしまわないか心配な私は襟を手で押さえている。


でも、バスローブを特注?


「あの、結構ですから。陽高様が嫌でしたら、パジャマもありますし…。」

「パジャマもいいが、面倒臭いだろう。」


私は別に面倒臭くなどないけれど、陽高様が脱がすのに…という意味なのかな。


「俺も風呂に入ってくる。テレビでも見て少し待っていてくれ。」

「はい。」


バスローブの話題をそれ以上引っ張るつもりはないようで、陽高様は浴室へ行ってしまった。

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