impatient
3
休憩室から飛び出したところで、不運にもその場にいた陽高様にぶつかってしまった。
「きゃ…ごめんなさい!」
「いい。それより、今日も仕事が終わったら来い。」
「あ…はい…。」
今日も。
さっきまで話していた内容だけに、余計意識してしまう。
「紗奈、どうした?」
「いえ、何でもありません。あの…今日はもう仕事終わったので…」
ただの事実を報告しただけなのに、今から早速しましょうと言っているようで、何となくはっきり言えない。
そんな私の胸中など知らない陽高様は、そうかと呟き、ならすぐに来いと言って、先に自室に帰っていった。
「ふぅ…」
溜息か深呼吸か判断できない息を吐き出し、私は静かに陽高様の部屋を目指して歩き出した。
陽高様の部屋の扉をノックすると、やけに遠くの方から返事が聞こえた。
不思議に思いながら中へ入ると、陽高様は浴室にいて、浴槽に湯を張っているところだった。
「もうすぐ溜まるから、入って来い。」
「はい…。」
使用人のためにお風呂を沸かす主人って…。
これが、特別ということ?
違う。違う。
ただ単に陽高様自身が、シャワーも浴びていない体を抱きたくないだけだ。
「紗奈?」
「あ、はい。」
「どうした?体調が優れないなら、今日は止めておくか。」
「いえ…大丈夫です。」
私を心配してか、こちらに歩み寄って来る陽高様。
頬にそっと手を添えられ、前髪にキスを落とされた。
甘く優しい仕草に顔を上げると、陽高様の視線の先…私の唇に、再度キスが降ってきた。
チュッチュッと軽いキスを繰り返した後、様子を窺うように口内に侵入してくるヌルッとした触感。
「ん………っふ。陽高様…?」
「……。」
「あの…」
「風呂、入りたいか?」
「え?はい…まあ。」
「もう溜まっただろう。行ってこい。」
「はい…」
脱衣所のドアを閉める際、その隙間から、ベランダに出ていく陽高様の姿が目に入った。
何かあったのかな。
「陽高様?」
髪を乾かしてバスローブを羽織り部屋に戻っても、陽高様はいなかった。
ベランダを見ると、案の定そこにいて、柵に腕を引っ掛けている。
声を掛けると、眼球だけを動かして、私を視界に捕えた。
「俺のはやはり大きいな。紗奈専用を作らせるか。」
陽高様は私の全身を眺めて言った。
確かに男性用のバスローブは少し大きめで、胸がはだけてしまわないか心配な私は襟を手で押さえている。
でも、バスローブを特注?
「あの、結構ですから。陽高様が嫌でしたら、パジャマもありますし…。」
「パジャマもいいが、面倒臭いだろう。」
私は別に面倒臭くなどないけれど、陽高様が脱がすのに…という意味なのかな。
「俺も風呂に入ってくる。テレビでも見て少し待っていてくれ。」
「はい。」
バスローブの話題をそれ以上引っ張るつもりはないようで、陽高様は浴室へ行ってしまった。
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