impatient
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「でも最近めっきり呼ばれなくなったよね。」
「紗奈ちゃんが来てからね〜」
「しかも陽高様が夜メイド呼ぶのって週に2回くらいじゃなかった?」
「それが毎晩とは、紗奈ちゃん相当気に入られてるね!」
3人の視線が一気に私に集まる。
ニヤニヤ楽しげに笑いながら、私を見つめる先輩達。
私が慌てて俯いて両手を横に振り否定すると、先輩の1人が根拠となる出来事を披露し始めた。
「でも本当に紗奈ちゃん大事にされてるよ〜。この間もさ、紗奈ちゃんが落としちゃって割れた食器片付けようとしてたら、陽高様危ないからって自分でやったもんね。」
「マジで〜?」
「ね、ね、紗奈ちゃんとする時って、陽高様どんな感じなの?」
興奮したように私に尋ねてくる先輩。
心なしか瞳が輝いている。
みんな、こういう話好きだなぁ…。
だけど、どんな感じかなんて説明できない。
私は陽高様の他に奏しか知らないし、初めての時は何が何だかわからなかったから、陽高様しか知らないようなものだ。
陽高様とのセックスが私にとっては標準で、比較する対象がいないのだから、どこを説明すればいいのかわからない。
その旨を先輩方に伝えると、4人揃って、あぁ〜と納得したような声をあげた。
今度の話題には、亜希さんも興味があるみたい。
亜希さんが思い付いたように口を開いた。
「あ。じゃあさ〜キスする?」
「します、けど…?」
「マジ!?」
「本当に!?」
「本気で!?」
亜希さん以外の3人が口々に真偽を問う。
キスを交わすのは普通じゃないの?
恋人同士ではないけれど、体の関係はあるのだから、いわゆる前戯というものの中に含まれていると思う。
少なくとも私は、キスなしで性交をしたことはない。
肯定の意味でこくりと頷くと、先輩方は乗り出した身を椅子の背もたれに戻した。
「紗奈ちゃん、やっぱ特別みたいだね。」
「超お気に入りじゃん。」
「羨ましーい!」
私がまたしても困惑していると、やっぱり亜希さんが説明を入れてくれた。
「陽高様ね、他のメイドにキスしたことないんだよ。」
「え…?」
「だから、紗奈ちゃんはメイド以外の対象として見られてるんじゃないかってこと。」
そんなわけない。
絶対ない。
だけど…自惚れてしまう。
期待、してしまう。
「そんなこと、ないですよ。」
「あるんだって〜!」
だめ。
一度そう思ってしまったら、真実と違うと知った時に一層傷つくから。
「そうそう。紗奈ちゃん、朝陽高様の部屋から出て来た所見たけど、もしかして泊まってるの?」
「あ、はい。大体は…」
「ほら、もう確定だって!うちら終わったらすぐ放り出されてたよね?」
その言葉に他の人達が頷く。
「それにさ、紗奈ちゃんいつも首とかにキスマークついてるけど、陽高様が他の人につけてるの見たことないよ〜!」
だよねーとさらに同調する先輩達。
止めて。
嬉しくなってしまう。
私は特別なんだと、勘違いをしてしまうから。
「あ、あの、失礼します!お疲れ様でした…!」
立ち上がり高速でお辞儀をして、逃げるように部屋から飛び出した。
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