impatient
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紗奈と陽高がまだ、ただのメイドと主人だった時の話
――ある日の使用人待機室にて。
「お疲れ様です。」
「お疲れ〜、紗奈ちゃん。」
私が部屋に入ると、亜希さんや他の先輩方は賑やかに話していたのを止め、私に目を向けた。
その瞳に渦巻く好奇の感情が私にも見てとれ、若干身を縮こまらせてしまう。
一体何の話をしていたんだろう…。
ドアの近くに立っていると、亜希さんが私を手招き、4人が囲むテーブルの空いた席に私を座らせた。
すると向かい側に座っていた先輩が身を乗り出して、好奇心に満ちた声で私に話し掛けた。
「ねえねえ紗奈ちゃん。」
「はい。」
「この間ピル飲んでないって言ってたじゃない?」
「はい…。」
「最近陽高様に結構呼ばれてるみたいだけど、毎晩エッチしてる?」
「…え、あ…えと…あの……?」
この間というのは、先輩が何か薬を飲んでいたのでどこか悪いのかと尋ねたら、先輩が驚いた顔で、それは避妊のための薬であり若いメイドに配布されているものだ、と説明してくれた時のことだ。
すぐにメイド長に呼ばれたので、それ以上の話には発展しなかったが、今から先輩はその続きを話すつもりなのだろう。
「陽高様とする時、避妊どうしてるの?」
「…陽高様が、ご自分でして下さってますけど…。」
「ゴムつけてるってこと?」
「…はい。」
私が頷くと、その先輩を含め全員が驚きの声をあげた。
そんなにおかしい事なの?
私が困惑していると、隣に座っていた亜希さんが説明してくれた。
「陽高様ね、メイドとする時ゴムしないんだよ。だからピルが支給されてるの。」
「しかもこれは執事の大澤さんがやってる事だけど、うちら血液検査までしてるんだよ〜。」
反対隣にいた先輩も口を挟んだ。
私が知らなかった事実が明らかになる。
けれど別に陽高様を非難したり、私に対する嫌味などではないようだ。
亜希さんを除く他の3人はほぼ同期らしく、話に花を咲かせている。
「でも陽高様、基本優しいよね〜。気持ち良くしてくれるし。」
「たまに口で処理させられる時もあるけどね。」
「ま、特別手当貰えるからいいじゃん!」
「給料いいし。」
「それに陽高様、顔いいし身長あるしテクあるし、下手な所で働くより全然いいよね〜」
「ね〜!むしろこっちからお願いしたいくらいだし〜」
「私も私も!」
なんだか凄く居心地が悪い。
亜希さんも同じなのか、それとも先輩の会話に入りにくいだけなのか、先程から発言はせずに、笑ったり相槌を打ったりしているだけだ。
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