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impatient

「もういいから休め。他の仕事も亜希にやらせる。……お前の代わりをさせようと言っているわけではない。元からそれほど乗り気じゃなかったからな。」

おそらく勘違いをさせたとわかったから、理解されるように全て伝えた。

彼女は一度、目をはためかせると、一気に顔を赤くして勢い良く謝る。

その勢いのまま亜希を呼ぶと言って部屋を飛び出した先で、彼女は何かに気付いて後ろにステップする。

「すみません…!」
「紗奈様?」

謝ったまま遠くなる少女の足音と、怪訝そうな大澤の声。そこに重なる、扉が閉まる音。

残された違和感。


……様?

サナは恐らく彼女の名前だろうとわかる。

しかし大澤が様付するのは俺と両親のみだ。
何故一メイドであるだけの彼女に。


「失礼致します。」

トレーに乗せられたセットは二人分。
紅茶と焼き菓子が当然のようにテーブルに並ぶ。
それには手をつけず大澤に視線を向けた。


「大澤。あれは俺の何だ?」


一瞬"あれ"の意味を考えたようだが、すぐに思い至ったらしい。深い皺の奥、僅かに驚きの混じった表情で俺を見据えた。


「…………それは…。」


俺が物心ついた頃には既に屋敷にいた大澤。
親の力以外何もなかった子供にも、執事として丁寧に接してくれ、その振る舞いはずっと完璧だった。

欲求に対する行動、質問に対する回答はいつも早く、待たされた記憶がない。優秀な執事だ。

そんな彼の言い淀む姿を初めて見た。
その態度がさらに、焦燥感を加速させる。


「言え。何を躊躇う。今お前が従うべきは誰だ?」
「……陽高様でございます。」


大澤はなおも躊躇い、一拍置いて口を開いた。


「申し訳ございません。紗奈様からも仰せつかっておりましたが、私自身も今はお伝えすべきではないと判断致しました。ですがそこまで仰るのなら、お答え申し上げます。」


珍しくされた言い訳のような前置きの後、話された事実は……。



「婚約者?どこぞの令嬢が、なんでメイドの真似事なんか。」
「いいえ、紗奈様は一介のメイドだったのです。貴方様ご自身がお選びになった方です。」
「俺が?」


その後やって来た警戒心丸出しの亜希を問い詰めても同様の回答だった。


興味が沸いた。
好意を持った女はいても、結婚したいなどとは微塵も思ったことがなかったからだ。

俺が選んだ女というのは、どれほどのものだろうか。
彼女の何がよかったのだろう。

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あきゅろす。
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