2nd Season
オダッチSIDEC
翌朝、携帯電話の着信音で目が覚めた。
アラームとは違う携帯の音に寝呆けたままボタンを押した。
「…………もしもし?」
誰、だった?表示を見るのを忘れた。
耳にあてた携帯から聞こえてきたのは、ピアノの音色だった。
…………山本?だったらピアノの音がするのはおかしいか。吾妻か?
ピアノの音色に混じって歌声が聞こえた。
歌っているのは山本だった。
今迄、レコーディングやトレーニングで聴いてきたような歌声とは違う、また別の山本だった。
聞いた事のある、昔の外国の女性アーティストの曲。
「…………まいったな。」
こんな声も出せるのか、こいつは。
女性アーティストの曲のせいか、流れるようにピアノに乗せられたその歌声は、少し掠れたとても艶のある声だった。
2月に発売された山本のソロシングルが、4月になった今でも売れているのは、CDには『アスタリスク』のラブソング英語バージョンとピアノ組曲が入っているからだ。
ネット配信しているのはメインの伴奏付きのみ。CDを購入しないと他のバージョンは聴けない。
山本の英語って、何か可愛いんだよな。
携帯電話の向こうで、この歌声を俺に聴かせたいと思ってくれた吾妻にはありがたいが、おかげで俺の企画の仕事が増えた。
あんなのを聴かされて、スルーできる訳ないだろ。
『………アズマ君、何してんの?』
『いや?別に、』
ん?
『いつまでも裸でいたら風邪ひくよ?パンツ履きなよ。』
吾妻の野郎、裸かよ。
これ以上は聞くに堪えない。携帯のボタンを押して通話を切った。
しっかし、あいつらこんな朝早くから何してんだか。
昨日真っ直ぐ帰るって言ったのに、吾妻は山本の家に泊まったのか?親父さんがいないのを良い事に恋人を家に連れ込むなんて、また山本のイメージが……。
しかし、その謎は案外早く解けるのだが、それはまた別の話。
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