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2nd Season
オダッチSIDEB


「もう名前決めたの?」

「………いや、まだ。」

「でも候補はあるんじゃないの?」

肉を返す手が一瞬小さく震えたのを、目ざとい男達は見逃さなかったらしい。

顔を上げて、内海と大澤を見たらニヤニヤと笑ってこちらを見ていた。

「………嘘だよ、決まった。けど言わない。」

「え〜!?」

大袈裟に声を上げる7人が非難するような目で見た。

俺と沙織の間に産まれた子ども、もうすぐこの世に産声を上げて10日になる。

それはそれは小さい可愛らしい今一番の宝物だ。

沙織の父親・義父が命名をしてくれたのだが、最初にその名前を見た時は俺も沙織も苦笑いしてしまった。

「女の子でしょ?そんな変な名前なんですか?」

変じゃない。ちゃんと考えてくれたんだから。

黙ったまま首を振った俺は、無意識にテーブルの向かいに座る山本と吾妻を交互に見た。

事務所でミーティングルームを出る時から山本は何か落ち着かない様子で時々吾妻をじっと見ていた。

「織田さんが隠したがる名前って言ったら、俺らに関係あるんじゃない?」

緑川が楽しそうに肉を口に運びながら聞いてきた。

「まぁ、…近いかもな。」

別に隠したい訳じゃないが、バレるのは時間の問題かな。

「分かった。High-Gradeだからハイコ。」

厚がウケ狙いで言った名前に吾妻が吹き出した。

「それならグレコの方が可愛いだろ。」

厚を指差して吾妻が付け足した。

「………何でグループの名前もじるんだよ。」

つい苦笑いして文句を言ったら、隣に座った博之が考えるように腕を組んだ。

「俺らの中で女の子に使える名前って、ヤマナツ位だよな。」

「でも、夏希じゃ季節が違い過ぎでしょ。」

大澤と博之が探りを入れるようにチラチラこちらを見てる。

山本が網の上から野菜を取ったら、吾妻が肉を摘んで山本の皿に載せた。

それを見てた厚が新しい野菜と肉を網に並べた。

内海がビールのおかわりを店員に頼むと、吾妻と大澤もおかわりを追加した。

「……平和の和に、希望の希。で、カズキ。」

一息に皆を見ないで愛娘の名前を告げた。

周りは騒がしいが、ココのテーブルだけが静まり返り、肉の焼ける音だけが聞こえた。

「何か、」

笑いを堪えるように、内海が続きを言うのを渋った。

「アズマ君とナツ君の子どもみたい。」

厚が臆面も無く、誰もが口にするのを憚った事を言った。

最初に笑いだしたのは山本だった。

「ぶ、は、ハハハハ!」

一斉に山本を見た皆が、続くように声を上げて笑った。

「いい名前。」

「ん、織田和希。綺麗な名前。」

ひとしきり笑った後、吾妻が言った言葉に、博之も続けて言った。

「はい、お前らグラス持って!」

内海がそう声を上げると、7人がそれぞれの飲み物のグラスを俺に向けた。

「織田カズキちゃん、おめでとうございま〜す!」

「おめでとうございます!」

グラスをぶつけながら、口々に声を上げて祝福してくれた。

「はいはい、ありがとうございます。」

お礼を言うと、山本が箸とグラスをテーブルに置いて、席を立った。

俺も一緒に立ち上がると、同じ方向へと歩きだした。

「トイレか?」

「はい。」

頷いて返事をした山本の全身を下から上へと見た。

トイレのドアの前で山本に先に入るように促すと、メンバーのいるテーブルを眺めた。

「………山本、お前…パンツ履いてないだろ。」

「……………分かり、ますか?」

一気に真っ赤になった山本のおでこを指で弾いた。

全く、変なお仕置きされやがって。

「モジモジし過ぎ。尻を隠し過ぎ。吾妻を見過ぎ。」

「………ごめんなさい。」

俺に謝られても、何もできないけど。

「なぁ、山本……本当にいいのか?お前……。」

あんな吾妻と付き合ってて………。

苦笑いしてトイレの中へと入っていった山本を見送ると、ポケットの中に手を突っ込んだ。

一足先にテーブルに戻ると、自分の席に着いてタバコを口にくわえた。

「吸っていいか?」

一応皆に声を掛ける。メンバーの中では大澤しかタバコを吸わない。その大澤も弟分達がいる時は遠慮しているのか今日は吸っていない。

灰皿を俺の前に置いた内海が「今日はありがとうございます」って早口で言った。

何に対してのお礼か、見当が付く事は付くが。

「いやいや、それが仕事だからな。お前らあっての俺の仕事だ。気にすんな。」

多分、山本のしでかした事と、緑川と厚のお祝いに皆を連れ出した事、

「オダッチがいるから、俺ら心おきなく飲めます。ご馳走様です。」

大澤も俺の顔を覗いてそうお礼を言った。

なるほどな、兄貴も大変な訳か。

店員を呼んで追加のお肉を頼むと、ついでに持ち帰りの品を注文した。

視界の端に山本がこちらへ近付いて来たのが見えた。

「吾妻、」

真向かいに座った吾妻に声を掛けた。

「お前、山本連れてもう帰れ。」

「は?何で?」

吾妻に言ったのに、緑川と厚が同時に同じ言葉を言った。

「山本…今日ズボン短いだろうが。風邪ひいたらどうするんだ。」

文句を言いたそうな2人を無視して、俺がそう続けて言うと、意地悪そうに笑った吾妻が「はいはい」って皿に残った肉を口に入れた。

「何が?短いって、別にハーフパンツじゃないじゃん。」

緑川が釈然としない顔で大盛りご飯の上に焼けた肉を並べてた。

「ヤマナツ、それ食ったら先に帰ろうぜ。」

「え?何で?」

飲み掛けのグラスに口を付けながら座った山本が、網の上にまた手を伸ばした。

「風邪ひくから帰れってよ。」

博之が焼けた肉を山本の皿に載せながら言った。

「…………ん、分かった。」

茶碗に残ったご飯を肉と一緒に口に運びながら、山本が俺をチラリと見た。

店員が手に包みを2つ持ってやって来た。

「お待たせしました、こちら持ち帰りの焼きおにぎりですね。」

紙に包まれた暖かい塊を吾妻と山本に渡すと、吾妻が「ありがとうございます」ってお礼を言って立ち上がった。

「じゃぁ、お先に失礼します。」

山本も立ち上がってバッグを肩から斜めに掛けながら挨拶した。

「吾妻、………真っ直ぐ、」

「帰りますよ。寄り道なんかしませんって。」

笑いながら山本の腕を引いた吾妻のその仕草が、イマイチ信用できなくて………、

「………パンツ早く返してやれよ。」

意地悪をしてやりたくなった。

「………は?誰の?ナツ君のパンツを?」

「うわ、まさかそれがお仕置き?エロい〜!」

「もういいから早く帰れよ、お前ら!」

口々に残りの5人が帰る2人に言葉を投げつけた。

俺だって、久々の休日を潰されたんだ。コレ位の意地悪したって誰も咎めないだろう。

「つぅか、オダッチよく気付いたな。透視眼鏡とか持ってんの?」

内海が楽しそうに笑いながらグラスをぶつけてきた。

「アホか、あんなの見てたら分かる。」

担当してるタレントの隠し事位見抜けないとダメだろ。

「…………怖〜、俺ら全然気付かなかったけど?」

そりゃ、お前らにはまだまだそんなの分からなくていいんだよ。若いんだから。

「ま、何だかんだ厳しい事言ってる風だけど、オダッチはヤマナツとアズマに甘いよな。」

大澤がフフンと笑いながらタバコに火をつけた。

ふと周りを見たら、5人が俺をじっと見てニヤニヤと笑ってた。

「………で、カズキちゃんの写メとかは?待受けとかにしてイライラした時とかに見るんじゃないの?」

…………そうか、その手があったか。

携帯を取り出すと、今日撮ってきた我がお姫様の写真を待ち受け設定にした。

隣に座った博之と大澤が俺の携帯を覗き込んで吹き出して笑ってた。

笑うがいいさ。お前らだって子どもが産まれりゃ気持ちが分かる……はず。





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